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「臓器線維症の病態解明と新たな診断?予防?治療法開発のための拠点形成」
- 代表研究者=稲垣豊 教授(医学部医学科基盤診療学系)
- 研究観点=「研究拠点を形成する研究」
※ 研究期間=5年
研究目的?意義
臓器線維症とは、肝硬変に代表されるように、コラーゲンなどの細胞間物質(マトリックス成分)が過剰沈着し、臓器の機能不全をきたした病態である。現在わが国において最も対応が急がれている、がん、糖尿病、高血圧症や高脂血症による循環器疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの生活習慣病の罹患臓器には線維化病変が共通して認められるため、線維化制御はこれらの疾患の進展予防に直結する重要戦略と位置づけられる。全身臓器の線維症の病態や進展機序には多くの共通性があり、その統一的理解は共通の予防?治療法の開発につながるが、これまでわが国では臓器線維症の系統的研究を行う施設は皆無であった。
本研究プロジェクトは、臓器線維症について臓器横断的研究を行うわが国における唯一無二の研究拠点を形成し、多彩なバックグラウンドを有する研究者と臨床医が系統的な研究を推進し、最終的に臓器線維症の診断?予防?治療法の開発につなげることを目的とする 。
研究計画?研究方法
(1)研究体制
1)細胞の発生?分化や老化などの生命現象において細胞外マトリックスが果たす多彩な機能を解明するマトリックス医学生物学センターを、平成26年度に大学院医学研究科に設置した。今回、臓器線維症に対する社会や産学の関心の高まりを鑑み、マトリックスの必要性と有害性の二面性を理解することで、病気のメカニズムを解き明かし、治療に役立てるための拠点整備を新たに行う。また、学内外から多数の大学院生や研究員を積極的に受け入れ、この分野における若手研究者の育成に努める。
2)肝線維症の病態解明と新規治療法の開発でこれまで世界をリードし、伊勢原研究推進部長を務める稲垣が本研究プロジェクトの代表者となり、本学における重点研究テーマとしてこれを強力に推進する。
3)研究の進捗状況を毎月の定例検討会で報告し、評価指標の達成度を確認する。また、年1回の公開研究発表会を開催して、複数の外部評価委員により定期的な研究成果の評価を受けることで、実験計画の調整や必要に応じての見直しを行う。
(2)年次計画
研究テーマ毎に具体的な年次計画を立案しているが、各テーマはお互いに密接に関連し、相補的にはたらく。
1)平成27年度~29年度: ヒトiPS細胞やゲノム編集技術を用いて臓器線維症の病態を解明するためのモニタリング細胞や線維化可視化マウスを作製するとともに、抗線維化効果をin vitroならびにin vivoで効率よく評価する線維化治療薬のスクリーニング系を構築する。
2)平成27年度~30年度: 線維症の診断に有用なバイオマーカーの探索や新規治療法の開発を目的とする基礎実験を実施し、臓器線維症の診断ならびに予防?治療法の開発に向けた分子細胞基盤を創出する。
3)平成30年度~31年度:基礎実験で得られた有用な診断マーカーと新規治療法について、非臨床試験から臨床試験への橋渡しを支援する本学の総合臨床研究センターと連携し、臨床試験を積極的に推進する。
研究により期待される効果
近年の臓器線維症に対する社会や産学の関心の高まりにもかかわらず、本疾患に対する安全で有効な治療法は未だ存在しない。その要因としては、細胞傷害がマトリックスの過剰産生を通じて組織の線維化をきたす機序の解明が不充分であることや、適切な疾患モデル動物や病態評価系が欠如していること、さらには臨床の現場においても臓器線維症の特異的診断マーカーや治療効果の評価法が確立されていないことなどが挙げられる。本研究プロジェクトでは、各臓器の線維症に共通する病態や進展機序の統一的理解を通じて、臓器線維症の診断および予防?治療法の開発を目指す。これにより、以下に示す効果が期待される。
1)臓器線維症の病態形成機序について系統的かつ臓器横断的研究を実現しうる、わが国における唯一無二の研究拠点形成
2)臓器線維症の診断と予防?治療法の開発につながる医療基盤技術の創出
3)新たに開発された診断ならびに予防?治療技術の他臓器への積極的応用
4)学内外からの大学院生や特定研究員の積極的受け入れによる、わが国における当該分野の若手研究者の育成拠点の形成