大学院工学研究科の星野光稀さん(2年次生)と仲澤祐人さん(1年次生)がそれぞれ執筆した論文がこのほど、国際ジャーナルに掲載されました。2人が所属する高尻雅之教授(工学部)の研究室では、熱を電気に変換する熱電発電の材料や装置の研究に取り組んでいます。今回掲載された論文は、いずれも優れた耐久性と柔軟性を持った熱電材料「単層カーボンナノチューブ」(SWCNT)を使った熱電発電機に関する研究です。
星野さんは、熱電発電機に活用する「N型ナノ複合膜」の製造過程に着目。SWCNTを原料に使用した場合、プラスの電気を発生させるP型とマイナスの電気を生むN型が生成できますが、N型の性質改善が課題となっていました。そこで、星野さんはSWCNTとカチオン界面活性剤、さらにビスマステルルナノプレートを混ぜてN型ナノ複合膜を作成。これをP型と接合させたPN接合膜を生成し、太陽光照射下で0.47mVの電圧が発生しました。論文では、N型インクにビスマステルルナノプレートを混ぜずに作ったN型ナノ複合膜からなるPN接合膜と比べて、約1.5倍の電圧が出力されたことをまとめました。
仲澤さんは、2021年度に同研究科を修了した千葉知志さんが開発した、水面に浮かべるだけで発電する熱電発電機の性能向上に取り組みました。この熱電発電機は、SWCNT膜を活用した熱電発電機を水に浮かべ、水が蒸発する際の気化熱を利用して、水に触れる部分と触れない部分との温度差によって発電できる仕組みです。しかし、SWCNTが高い疎水性を持つために出力される電力が小さいことが課題でした。仲澤さんは親水性の高いαセルロースを混ぜてSWCNT膜を生成し、温度差が増大することで1.0mVを発生させました。加工を施していない膜と比べて、3倍以上の電圧を出力することに成功しています。
自身の論文が初めて国際ジャーナルに掲載された2名は、「自分たちの研究成果が掲載されてうれしい。熱電発電機の性能をさらに向上させるため、さまざまなアプローチで実験を続けていきます」と話しました。指導に当たる高尻教授は、「2人の論文は、研究室の卒業生や学生が取り組んできた内容を発展させた内容です。研究のバトンタッチがうまくできていることをうれしく思います」と語っていました。
【掲載誌と論文タイトル?著者一覧】
◆星野光稀さん(大学院工学研究科2年次生)
?タイトル:N-Type Nanocomposite Films Combining SWCNTs, Bi?Te? Nanoplates, and Cationic Surfactant for Pn-Junction Thermoelectric Generators with Self-Generated Temperature Gradient Under Uniform Sunlight Irradiation
?日本語題:均一な太陽光照射下で自己生成温度勾配を持つPN接合熱電発電機用のSWCNT、Bi?Te?ナノプレートおよびカチオン界面活性剤を組み合わせたN型ナノ複合膜
?掲載誌:Sensors
?URL:https://www.mdpi.com/1424-8220/24/21/7060
◆仲澤祐人さん(大学院工学研究科1年次生)
?タイトル:Boosting performance of heat-source free water-floating thermoelectric generators by controlling wettability by mixing single-walled carbon nanotubes with α-cellulose
?日本語題:単層カーボンナノチューブとαセルロースを混合して濡れ性を制御し、熱源不要の水浮遊熱電発電機の性能を向上
?掲載誌:Applied Thermal Engineering
?URL:https://doi.org/10.1016/j.applthermaleng.2024.124714