大学院工学研究科電気電子工学専攻2年次生の池上聖人さん(指導教員:情報理工学部?黒田輝教授)が執筆した論文”Morphological Observation of the Pupal Body of Trypoxylus dichotomus Using 9.4T MR Imaging” (9.4T MRIによるカブトムシ蛹体の形態学的観察)がこのほど、国際学術論文誌『Magnetic Resonance in Medical Sciences』に掲載されました。
この研究は、鞘翅目に属するカブトムシが幼虫からサナギ、成虫へと変態する過程をMRIで撮影し、体内構造を明らかにしたものです。池上さんが東京都市大学理工学部に在籍していた2018年度に、同大学とbet36体育投注_bet36体育官网app-在线*开户は研究交流に関する包括協定を締結しました。当時、池上さんはチョウの変態に関する研究に取り組んでおり、MRIによる生体計測を専門とする黒田教授との共同研究がスタートしました。その際に、黒田教授が研究していた鞘翅目蛹体における変態過程のMRIによる観察に関心を持った池上さんは、20年度に本学大学院工学研究科に進学しました。本研究はこのような経緯の下、包括協定に基づいて技術共同管理室の小田慶喜博士による支援も得ながら遂行されたものです。
これまでカブトムシの幼虫がサナギになった(蛹化)とき、体内が「どろどろに溶けた状態になる」などと言われてきました。しかし変態の過程をMRIで撮影すると、蛹化直後は崩壊した組織で作られた体液が消化管を膨満させるように蓄積されて体液溜めを形成し、その後その体液を使って周囲の成虫器官が作られ,それにつれて体液溜めは細く長くなり,やがて成虫の消化管となる頃に,成虫体の全体が形成されることが分かりました。今回の研究では、この過程における体液内の水分子の拡散状態や各器官の成長過程についても可視化することに成功しています。
23年度から大学院総合理工学研究科(博士課程)へと進む池上さんは、「本研究はまだまだ初期段階です。今後は蛹化時に蓄積される体液の化学成分の分析ならびに拡散テンソルの撮像に基づいて、より詳細に変態過程を解明してゆきたい」と抱負を語っています。黒田教授は、「サナギの内部構造を知るために検体を切断すると内部組織が流れ出てしまい、X線撮影をすれば電離放射線被爆による死亡例が増え同一個体の連続撮像ができなくなってしまいます。これらに対してMRIの多様な技術を用いた撮影は最も効果的な研究方法だと考えています。変態過程おける器官の崩壊?再構築メカニズムを明らかにできれば、新たな再生医療技術に発展する可能性もあります。“サナギの中はどうなっているの?”という純朴な疑問が、人類を救うヒントにもなるかもしれません。池上君は勤勉で研究センスに恵まれた学生なので、博士課程進学後の研究の進展に大いに期待しています」と話しています。