大学院健康科学研究科看護学専攻を昨年度に修了した葛西香織さん(宮城県立こども病院所属)が、10月3日にオンラインで開催された日本家族看護学会第28回学術集会で「18トリソミーの子どもをもつ母親の体験」と題した研究成果を発表し、「理事長賞」を受賞しました。この研究は、葛西さんが本専攻の「家族看護専門看護師コース」在籍中に取り組み、修士論文としてまとめたものです。葛西さんは、生存率が低く、恒常的な医療的ケアを必要とする希少疾患である「18トリソミー症候群」の子どもを持つ母親2名に、妊娠から出産、子育てに至る体験についてインタビューし、現象学の方法を用いて内容を分析。その結果、母親や家族は子どもの生きる力を信じて闘い、子どもと過ごす時間を愛おしむといった、これまで医療従事者がとらえきれなかった前向きな家族の姿を明らかにしました
葛西さんは、「受賞を聞いて最初に浮かんだのは、インタビューに協力してくださった母親と、彼女たちに出会わせてくれた子どもたちへの感謝の思いでした。この研究成果をしっかりと臨床に生かさなければならないという責任を感じています。小児専門病院で重篤な疾患と闘う子どもたちの看護に携わり、NICU(新生児集中治療室)で子どもの家族ともより深くかかわるようになったことから、家族看護を学びたいと考えて本専攻に進みました。家族の健康とは何か、看護師はどのように家族にかかわるべきかを追究し、他の看護領域の大学院生や先輩、後輩、先生方と議論を重ねることで、研究を深めることができたと思っています。辛抱強く指導してくださった先生方にも感謝しています」と話します。
さらに葛西さんは、10月に実施された「第31回専門看護師認定審査」に合格。東北地域で唯一の「家族支援専門看護師」として新たな一歩を踏み出すことになりました。「家族支援のスペシャリストとしてそれぞれの家族が持つ強みを引き出し、多職種でそれを共有してケアに生かすのが目標です。大学院での学びを生かしながら専門看護師としての責任を果たし、地域医療に貢献したい」と意欲を語っています。
指導した井上玲子専攻長は、「この研究は、真摯に母親と向き合って信頼関係を築き、その体験世界に入り込むことで得られた貴重な成果です。18トリソミーという疾患の特性上、子どもが亡くなることを意識せざるを得ない状況の医療従事者に、新たなケアの視点を与えてくれました」と意義を語ります。「高齢者や子ども、精神疾患の患者さんらの在宅ケアには、家族の力が不可欠です。また最近では、生命の危機に直面している患者さんに対する治療法の選択など、倫理的に難しい判断が家族に委ねられる状況も増えています。家族支援専門看護師には、そうした家族と医療従事者をつなぎ、互いに納得できるサポートや選択ができるよう導く役割が期待されています。葛西さんには、多職種連携の要として医療チームと調和?協働しながら、家族支援専門看護師だからこそ可能となる子どもや家族への支援を実践するとともに、地域のリーダーとしてその意義や経験を広く伝えてほしいと願っています」と話しています。
なお、本学では他大学に先駆け、1995年の健康科学部(現?医学部)看護学科の設置時から「家族看護学」を必修科目としてカリキュラムに取り入れ、99年の本専攻科の設置時から「家族看護学領域」を開設。2008年には家族看護のスペシャリスの養成コースを設け、日本の家族支援専門看護師の第1期生を輩出しました。本専攻出身者の家族支援専門看護師資格試験の合格率は100%を誇り、現在活躍している同専門看護師の約半数を本専攻出身者が占めています。井上専攻長は、「家族看護はあらゆる看護領域を横断し、すべての健康段階にある家族へのケアを提供します。今後も教育?研究のさらなる充実を図り、多様な環境で活躍できる実践者を育成していきます」と語っています。