医学部医学科基礎医学系分子生命科学の福田篤講師(文部科学省卓越研究員、総合医学研究所、マイクロ?ナノ研究開発センター)とハーバード大学のケビン?イーガン教授らの研究グループがこのほど、女性由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)に特異的に発生するX染色体不活化異常の原因を解明。その成果をまとめた論文が8月19日(日本時間20日)に、科学雑誌『Stem Cell Reports』オンライン版に掲載されました。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の平成31年度再生医療実現拠点ネットワークプログラム(幹細胞?再生医学イノベーション創出プログラム)「ヒト多能性幹細胞を用いた転写/エピゲノム多様性?性差に基づく神経細胞分化能の制御機構解明と予測モデルの構築(研究開発代表者:福田篤)」などの採択を受けて取り組んだものです。
ヒトiPS細胞やヒトES細胞は試験管内でほぼすべての細胞に分化できるため、再生医療や創薬のスクリーニング(有効な化合物の探索)などに最適なツールとして活用されています。しかし、女性由来のiPS?ES細胞については、2つのX染色体(性染色体)の一方の働きを抑えて遺伝子量を適正に補正する「X染色体不活化」が機能しなくなるという試験管産物特有の異常が発生し、本来の細胞状態を維持できないことが報告されています。
研究グループではこの原因を特定するため、女性由来細胞のみで確認され、X染色体不活化の開始と維持に必須の役割を担う遺伝子「非コード長鎖RNA XIST(イグジスト)」の発現制御機構を解析。その結果、De novo DNAメチル化酵素(遺伝子をメチル化してゲノム配列を変えずに役割を制御する酵素)「DNMT3A」「DNMT3B」がXISTの働きを抑制し、iPS?ES細胞のX染色体不活化を破綻させることを明らかにしました。
福田講師は、「De novo DNAメチル化酵素の働きを弱めたり、一度抑制されてしまったXIST遺伝子の働きを再活性化させたりする方法を開発し、X染色体不活化破綻を回避できれば、女性特有の疾患メカニズムの解明や創薬の開発をはじめ、自分の細胞から作製したiPS細胞による再生医療など、女性由来iPS?ES細胞の活用の可能性が広がります」と展望を語ります。「ハーバード大学留学時代から恩師のケビン?イーガン教授と続けてきた研究の成果を、筆頭著者として、またイーガン教授との共責任著者として発表できてうれしい。今後も、X染色体不活化破綻を救う方法を見出すための研究に注力したい」と意欲を見せています。
※『Stem Cell Reports』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.cell.com/stem-cell-reports/fulltext/S2213-6711(21)00381-7