大学の先生にはいろいろな人がいる。広報メディア学科で言えば、マスメディアの現場で活躍していた方もいれば、さまざまなプロジェクトを運営してきた方もいる。私は広告デザインの現場で勤務してから大学院へ進学し、現在は研究者として学術論文を書き、また一般向けに記事を書くこともある。
せっかくなので、最近書いた記事を一つ紹介する。2021年の夏に開催されたオリンピック?パラリンピック東京大会についての記事である。私の専門はメディアやデザインの社会学なので、この記事では東京大会のデザインを総括する記事を書いた。
Tokyo Art Beat「2020年オリパラ東京大会のデザインを振り返る」(2021年10月21日)
https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/olypara2021_series1_
この記事では東京大会のデザイン(エンブレム、マスコット、ピクトグラムなど)を概観したうえで、注目すべきポイントを3つ挙げ、今後の課題を整理した。
一つ目は市民参加の導入である。これまで専門家だけで決められてきた多くのことに市民も参加できるようになった(こうした展開はオリンピックに限らない)。エンブレムやマスコットも市民から公募している。
二つ目は市松模様を用いたマーケティングである。東京大会のエンブレムは藍色で3種類の四角形45個を組み合わせ、「多様性と調和」を表現している。興味深いのは、このエンブレムからさまざまなバリエーションが生成されたことである(応援グッズなど)。
三つ目はユニバーサルデザインの導入である。ノンステップバスの導入や、駅や公共施設、病院を結ぶ道路のバリアフリー化、スポーツやイベント会場(新しい国立競技場)、その他のインフラに関する新たなバリアフリーの基準の導入などが、この8年間で社会の風景は大きく変わった。なかでも従来よりも車高の高いタクシー(トヨタの「ジャパンタクシー」)は、ここ数年で当たり前の風景になった。
私が興味深いと思うのは、社会の風景がじわじわと変化していることである。一つひとつは小さな変化であっても、それらが積み重なることで、気がついたら風景が一変していることがある。
こうした「当たり前」の風景を一つひとつ丁寧に調べ、適切に言語化することが、私は大事だと思っている。そしてこうした作業を学生と一緒にしながら、これからの社会に何が必要なのかを考えるようにしている。本や映画を解釈するように、街の風景や日常の暮らしも解釈可能であり、そういう勉強もできるのが大学の面白いところだと思う。