大学院総合理工学研究科博士課程1年次生の宮下創さん(指導教員=木村啓志教授 マイクロ?ナノ研究開発センター、工学部生物工学科兼任)が、昨年11月に仙台国際センターで開催された「第15会マイクロ?ナノ工学シンポジウム」で若手優秀講演表彰を受賞しました。同シンポジウムは一般社団法人日本機械学会のマイクロ?ナノ工学部門が主催するもので、同賞は200件近い発表の中から、優秀な発表を行った若手研究者に贈られます。宮下さんは現在、本学独自の大学院生に向けたキャリア支援制度である「特定助手」に採用され、自身の研究を推進しながら工学部生物工学科と同機械工学科の授業のサポートもしています。

発表のテーマは、「連続的な薬物濃度変化を実現する透析膜集積型Microphysiological system(MPS)を用いた抗がん剤評価」です。MPSは化学物質の非臨床試験における動物実験の代替法として注目され、特に創薬分野での応用が期待されています。しかし、MPS内で細胞を培養する際に、培養液と薬物が同時に交換されてしまう点が課題となっています。MPSをより生体内の環境に近づけるためには、薬物の濃度を連続的に評価することが求められるため、宮下さんは連続的な薬物濃度変化による薬効の影響評価系確立を目指して、人工透析で使われる特殊な膜(透析膜)に着目。微小な流路で接続されている栄養供給チャンバ(装置)と細胞培養チャンバの間に透析膜を挟み込み、分子サイズの違いで培養に必要な栄養素で分子サイズの小さなグルコースを透過させ、サイズが大きい薬物は保持したまま細胞を培養することに成功。これによって、培養系の中に薬物を保持したまま細胞の培養が可能になりました。
木村教授は、「学部3年次生の後期からMPSの開発や実験に取り組んできた宮下さんは、持ち前の粘り強さとこだわりで材料が違うもの同士を接着する技術などのノウハウを蓄積してきました。装置の設計にも秀でており、シンプルで無駄がない上に、見た目も良いデバイスを作ってくれます」と評価します。宮下さんは、「バイオ系ばかりではなく機械系の研究者もいる発表の場では、細胞や薬物についてより丁寧な説明を心がけるなど、経験を積んで徐々に内容をブラッシュしてきました。今回が初めての受賞ですが、自分なりにその時の最高点を目指して妥協せずにやってきたと思います。まずは、この研究内容を博士論文として社会に対して発表できるように頑張り、今後は機械系とバイオ系の融合を手がけてきた経験を生かし、ジャンルを問わず新しい分野に対しても惜しみなく進んでいきたい」と語っています。