工学部精密工学科の槌谷和義教授(マイクロ?ナノ研究開発センター)らの研究グループが展開する研究プロジェクト「Design and Development of Self Powered Selective Collection of Rare earth Elements from Sea Water(海水からの希土類元素選択分離ポンプの設計と開発)」がこのほど、日本学術振興会の「二国間交流事業 共同研究?セミナー」に採択されました(採択期間=2年間)。同事業は、日本の大学等に所属する優れた研究者が相手国の研究者と協力して行う共同研究?セミナーの実施に要する費用が支援されるものです。今回のプロジェクトでは、インド?サストラ大学とインド情報技術大学(IIIDTM)の研究者と連携。本学からは、槌谷教授のほか、海洋学部航海工学科航海学専攻の高嶋恭子准教授、マイクロ?ナノ研究開発センターのガネシュ?マニ特定研究員が参加しています。
日本は世界第9位の排他的経済水域を有する海洋大国であることから、域内の海底からレアアースなどの資源を採取する技術の研究が古くから行われていますが、商用化には至っていません。一方、近年の研究で海水中にも多くのレアアースが溶け込んでいることが明らかになっています。本研究プロジェクトでは海水からレアアースを取り出す新技術を開発するとともに、さまざまな場所や深さの海水中の資源濃度をマッピングすることで、より効率的に資源を採取する手法の開発を目指します。
研究では、槌谷教授が出願した特許技術とサストラ大の金属錯体技術を活用。毛細管現象を利用して海水を自動的に吸い上げ、バナジウムやチタン、リチウム、コバルトなどのレアアースを選択的に抽出できるポンプを開発し、潮力発電所などに設置されているブイに取りつけて実際に採取する実験を行います。IIIDTMは細い流路での流体の流れ方を調べるシミュレーション技術を使ってポンプの高効率化に向けた実験を担当。高嶋准教授は、本学の海洋調査研修船「望星丸」を使って駿河湾内で採取したサンプルをもとに、さまざまな地点や深さごとのレアアース濃度の違いなどを分析します。
槌谷教授は、「レアアースは工業製品には欠かせない資源になっていますが、採取できる量が少なく、高価なことから国際間紛争の原因となっている一面もあります。そうした中で、海水から安価に取り出す技術を確立できれば、政治情勢などに関係なく、だれもが利用できる資源となり、平和や安定にも貢献できると期待しています。この研究の核となる吸い上げ技術は元々、血液を補助エネルギなしに吸い出す方法の開発を目指して取り組んだもので、発想の転換によって生まれたこのような研究に携わることで、将来を担う日本とインドの若手研究者が成長できるプロジェクトにもしていきたいと考えています。今後も研究を通して、精密工学の幅広さや可能性を切り拓き、社会に役立つ技術を世に送り出していきます」と話しています。