文学部日本文学科の小林千草特任教授の著書『絵入簡訳 源氏物語三』がこのほど刊行されました。本書は紫式部の『源氏物語』を、簡訳というリズミカルな現代語訳と本学付属図書館桃園文庫が収蔵する山本春正の 『絵入源氏物語』の美しい挿絵によって、誰でも手軽に楽しめる本に仕上げたものです。第三巻は源氏亡き後の宇治で匂宮と薫大将が繰り広げる新たな恋の物語 で、宇治十帖までを含めた完結編です。この巻は当時の状況を反映してか、御仏の世界へひかれつつも、父である源氏と同じように恋に惑い、悩み翻弄される人 の世の無常が描き出され、奥行きの深い物語が展開します。また、巻末には特別付録「『源氏物語』のことば」を収録し、紫式部の表現の世界をより繊細に味わ えるものとなっています。
「『源氏物語』をいつか自分の生きる時代のことばに置きかえてみたいという長年の夢が叶って、これほどうれしいことはありません」と話す小林特任教 授。着手から約8年という長い年月を経て完成までこぎつけました。「現代語訳にあたっては、全訳の冗長さをどう切り抜けるか、大作家の手になる全訳が刊行 される中で”自分の色”をどう出していくのかなど悩むことが多々ありました。その中で山本春正の『絵入源氏物語』の挿絵とのコラボレーションを思い至りま した。源氏物語をたどっていくと、なんと多くの会話で構成されていたのかと驚くほどです。和歌に託した思いと同様、コミュニケーションによって相手の心を 知ろう、探ろう、動かそうと必死であったことは平安時代の王朝人も現代人もなんら変わりはありません。その世界の奥深さや紫式部の構成力の素晴らしさをよ り多くの皆さんに味わっていただければと思います。私自身も本書完結を1つのステップにして、源氏物語の構成論(成立論)や紫式部評伝の世界へさらに学び を進めていきたいと思います」と発刊への思いと今後の抱負を語っています。
【出版物概要】
書名:『絵入簡訳 源氏物語三』
著者:小林千草、千 草子
出版社:平凡社
定価:3024円(本体2800円)
頁数:400ページ