文学部文芸創作学科では5月24日に、シンポジウム「辺境の想像力―現代文学における〈境界〉へのまなざし」(第281回文学部「知のコスモス」)を開催 しました。このシンポジウムは文芸評論書『北の想像力〈北海道文学〉と〈北海道SF〉をめぐる思索の旅』(岡和田晃編、寿郎社)の刊行を記念して実施され たものです。共著者として本学の石和義之講師(SF評論家)や倉数茂講師(作家、文芸評論家)が名を連ねています。岡和田晃氏(文芸評論家?ライター)が 編者をつとめた同書は、北海道を舞台にした作品や、そこへ強く結びついた作品を論じることから、文学やSF(スペキュレイティブ?フィクション=思弁的小 説)の現代の問題と本質を問い直そうとするものです。14名が寄稿した論考に加えて、ゲストエッセイなどが収録されています。
シンポジウムは岡和田氏と石和講師の講演に続き、パネルディスカッションが開かれました。執筆者からは田中里尚氏(文化史研究者?文化学園大学准教授)、 東條慎生氏(文芸評論家?ライター)が、また本学科からは三輪太郎准教授(作家、文芸評論家)と山城むつみ教授(文芸評論家)が参加し、司会を倉数講師が 務めました。パネリストらは、『北の想像力』で取り上げた文学者や作品を具体例に、辺境や境界性が内包している表現や受容の問題、社会や政治的情況と不可 分な文学の問題について討議を重ねました。
岡和田氏は、「各執筆者の熱の入った論考が集まり、700ページを超える大冊となったが、”北の想像力”という切り口から、日本にありえたもうひとつの未 来への突破口を示せたのではないか」と語りました。また、「空間イメージは、常にその中に意味をまとっているが、そのイメージは日本の戦後史を見直してい く上でも見落としてはならない要素に違いない」(倉数講師)、「向井豊昭は、岡和田氏の仕事によってキャリアの全容に光が当たり、僕自身もその作品の奥行 きに目を見開かされた。これが文芸評論の真の仕事だろう」(山城教授)といった意見が交わされました。