大学院海洋学研究科海洋科学専攻の坂本理沙さん(2年次生)がこのほど、日本海洋学会若手ベストポスター賞を受賞しました。この賞は、3月21日から25日まで東京海洋大学品川キャンパスで開催された日本海洋学会2015年度春季大会で実施された若手研究者による約40件のポスター発表の中から、同学会が奨励を目的として3件の優秀な発表を選び、贈られたものです。
坂本さんの発表のテーマは、「物理特性を考慮した熱帯域における海洋観測ブイの最適配置に関する研究」です。海洋観測ブイは、島が少ない太平洋赤道域でエルニーニョ現象などの観測に使われる観測手段です。1980年代からアメリカ海洋大気庁(NOAA)が熱帯太平洋域にブイによる観測網を展開。さまざまな深さの海水温度や流速、あるいは海上での気温、湿度、風向などを計測できる機器を搭載した数十個のブイを太平洋の赤道域に設置して観測しています。また、最近ではこの観測網の中の西部熱帯域を日本の海洋研究開発機構が担当しています。しかし近年、既存のブイの老朽化や管理不足などによって観測を中止しているブイが頻発。さらに、ブイによる観測にかかる多額の費用も大きな課題となっており、観測に関する費用対効果を考慮した、効果的な設置場所を特定することが急務となっていました。
坂本さんは久保田雅久教授の指導を受け、気象庁が作成した20世紀後半から2013年まで55年間の再解析データセット「JRA55」や、人工衛星を利用して作成されたデータを用いて海上風や水温、湿度などを詳細に解析。エルニーニョやマデンジュリアン振動といった、赤道域に固有な気象変動のデータと解析データとの相互関係を調べることにより、赤道域のどの地点に観測ブイを置けば効率よく赤道域の特徴的な物理現象をモニタリングができるかを提案しました。このような研究は全世界的な気象変動の予測に欠かすことができないにもかかわらず、これまで誰も手がけていなかったものです。
坂本さんは、「受賞できたことは驚きでした。この研究を通して熱帯域での物理現象に興味を持ったので、これからもさらに研究を進めていきたいと思います」と話しています。久保田教授は、「このような地道な解析作業は大変な苦労がありますが、誰かがやらなければならないことであり、やり遂げたことに大きな意義と成果があります」と語っています。坂本さんは5月中旬に台湾で、また8月にシンガポールで開かれる国際学会でもこの成果を発表する予定です。