海洋学部水産学科食品科学専攻の清水宗茂准教授と学生がこのほど、静岡県西伊豆町の田子地区で製造されている伝統食「塩鰹(しおかつお)」を用いた新商品「塩カツオDE塩分チャージ」(塩飴)を開発。9月28日には、本商品の開発を請け負う同町の「飴元 菊水」で販売を開始しました。「塩鰹」は、カツオの長期保存のため塩に漬け込み、乾燥して製造される塩蔵品。県内では「正月魚(しょうがつうお)」とも呼ばれ、縁起物として神棚へ供えられてきました。平安時代に編纂された?延喜式」にも登場するほか、江戸時代末期には、庶民料理番付の前頭に記載されるほど親しまれていました。かつては伊豆半島全域で作られていましたが、現代では需要が減り、神事として塩鰹を供える文化が残る西伊豆町田子地区でしか製造されていません。
清水准教授らは2019年度から、地域の食文化を継承するとともに新たな観光資源を活用して西伊豆の地域振興につなげようと、本学総合研究機構の商品開発助成を受けて商品の企画?開発に着手。国立歴史民俗博物館で塩鰹の歴史や製法などの文献調査とともに、塩鰹に含まれる成分も分析しました。その結果、生のカツオに比べて100倍以上の高い塩分を含むことがわかったことで、この塩分を生かすとともに、伊豆半島の観光客数が夏場に多いことも考慮した商品形態を検討し、熱中症対策にもなる塩飴の開発を決定。購買層を「伊豆に観光で訪れる50~70代の女性」と設定しました。
さらに、製造に向けて延べ400名以上のボランティアに試食?アンケートを実施。改良を重ね、ほのかにカツオの香りを感じ、強すぎない塩分量に調製することで、購買層が“どこか懐かしい味”に感じる塩飴「塩カツオDE塩分チャージ」が完成しました。飴1個あたりの食塩相当量を約0.06gにすることで、熱中症対策としても活用できるよう工夫しています。なお、商品パッケージは静岡県立駿河総合高校の生徒がデザインしました。清水准教授は、「塩鰹の製造元となる株式会社田子丸やカネサ鰹節商店など多くの皆様にご協力いただくとともに、静岡県経営管理部地域振興課や西伊豆町役場まちづくり課を通じて飴元菊水様を紹介いただき、商品化に至りました。塩カツオは大変塩味が強く、それを生かした商品とするのが大きな山場でしたが、学生たちの地道な調査でコンセプトが固まり、カツオの栄養と塩分の補給が可能な商品に仕上がりました。消滅が危惧される塩鰹の食文化を残すには、その認知を広めることが不可欠。塩鰹に関する詳細な情報を得られるよう、商品ラベルにはQRコードも記載しました。大学生を主体とした商品開発のほかにも、地元の小?中学校などで食育を行うなどのアプローチを継続することが重要と考えています」と話しています。
28日の「飴元 菊水」での販売には、清水准教授とプロジェクトに携わった学生が店頭に立ち、来店者に商品をアピールしました。本山亮介さん(水産学科食品科学専攻4年次生)は、「塩カツオの味を表現するため、粉末の量を工夫しています。また、さまざまな形状を試すなど試行錯誤し四角い形に決定。伝統食品を使った商品が無事に発売となってホッとしました。塩カツオに興味を持ってもらい、静岡県全体に広がるきっかけになれば」と話します。小林愛冬さん(同3年次生)は、「塩カツオを食べられる機会は限られていますが、飴になっていれば気軽に口に入り、伝統文化を知るきっかけにもなります。買ってくださったお客さまも“おばあちゃんにあげる”と話してくれてうれしく感じました。今後も多くの人が手に取りたくなる、おいしい商品をつくっていきたい」と今後への意欲も語っていました。
また10月5日には、今年7月に発生した豪雨災害からの復興に向けて、熱海市が設置しているボランティアセンターに、「塩カツオDE塩分チャージ」100袋を寄贈しました。開発中に飴元菊水のある西伊豆町から近い場所で災害が発生したことを受け、清水准教授やプロジェクトに携わった学生たちが企画したもので、「縁起物である塩カツオを使った飴を食べて、健康に留意するとともに、少しでもホッとした気持ちになってもらいたい」という思いを込めています。
海洋学部生100名が、ボランティアへの感謝のメッセージを寄せたカードも1袋ずつに添えて、清水准教授が代表して同センターに届けました。清水准教授は、「熱海では、豪雨とそれにともなう土石流で甚大な被害がありました。発生から3カ月あまりたちましたが、静岡県の捜索や、ボランティアによる復興支援活動も続いています。10月に入っても気温が30度を超える日もあり、少しでも熱中症予防に役立てていただければ幸いです。また、学生が主体的にアクションを起こして実現した取り組みであり、今後もこのように商品開発を通じた地域貢献を果たしてゆきたい」と話しています。