海洋学部水産学科の後藤慶一教授の研究グループがこのほど、富士通株式会社との共同研究で、ビンチョウマグロのおいしさに最も影響する脂分を冷凍状態のまま非破壊で評価することに世界で初めて成功しました。冷凍マグロの品質評価では、商品価値の高いマグロを見分ける技術の開発に高いニーズがあります。研究グループでは2022年度に、超音波AI技術を用いて非破壊でマグロの鮮度を判別することに成功していました※。しかし、おいしさに直接影響を与える脂分の判別は、引き続き課題となっていました。今回の研究では複数の超音波波形を活用した新しい機械学習アルゴリズムを開発し、尾切り選別と同程度以上の確度で脂分の多いビンチョウマグロの判別に成功しました。この研究成果は12月22日、23日に福岡県福岡市で開催される超音波研究会(一般社団法人電子情報通信学会主催)で発表する予定です。
ビンチョウマグロの「ビントロ」と呼ばれる脂がのった部分は白っぽいピンク色であるため、尾切り選別で見分けるには熟練者の技術を要する一方、水産商社を中心に、魚体の一部の欠損が避けられない尾切り選別に代わる効率的?機械的な選別作業方法の開発に期待が高まっています。研究グループでは、電磁波や超音波の伝搬を時系列に沿って計算する標準的なシミュレーション手法であるFDTD法を用いた超音波シミュレーションでさまざまな条件での波形データを生成。アルゴリズムの性能向上に寄与する因子を検討した結果、機械学習に用いる超音波波形の数が多いほど確度が向上することが判明しました。さらに、機械学習の性能に寄与する波形とそうでない波形があることも分かりました。この知見から、波形ごとに重み付けすることで機械学習の判別性能が向上すると考え、複数の超音波波形を入力データとして波形ごとの特徴を抽出する「超音波波形分析AI」、その出力に重み付けする「特徴評価AI」、そして最終的な判定(例:脂分が多いマグロか否かの最終的な判定)を行う「判定AI」からなる新手法のアルゴリズムを開発しました。
また、新アルゴリズムを用いて冷凍ビンチョウマグロの脂ののり具合判定を試行するため、尾切り選別による脂の分類ラベル付きビンチョウマグロの尾側の魚肉について脂分の化学分析を行い、脂が多いと捉えられる傾向にある脂分9g/100g以上であった場合に丸魚全体を「脂極み」検体として尾切り選別の正解率を算出。さらに、冷凍検体の表面からも波形を取得して、新アルゴリズムと通常のニューラルネットワークの性能を、三分割交差検証を用いて評価しました。その結果、化学分析の正解率を100%としたとき、尾切り選別による脂極み分類の正解率は78.9%でした。通常のNNWによる正解率は1波形を用いた場合は70.5%、8波形を用いた場合は75.1%でした。一方、8波形を用いた新アルゴリズムによる正解率は80.0%であり、尾切り選別と同程度以上の分類性能を非破壊で達成することに成功しました。
被験者が美味しさを評価する「官能評価」も行い、脂分の含有量とおいしさの関係性を検証。7名の被験者が脂分含有量の異なる6検体のビンチョウマグロ刺身を実食し、脂ののり具合とおいしさを評価しました。化学分析による判定で脂極みは6検体中1検体でしたが、官能評価でも脂極みの検体を高い確率で見分けることができました。また、脂極みの検体を官能評価でもよりおいしいと評価する結果になりました。
また、今後の実証実験を見据えて、複数の超音波波形を同時に取得できる自動検査試作機を製作。冷凍ビンチョウマグロの尾近辺から8個の超音波波形を同時取得できるようにプローブを配置したことで、機械的にプローブを押し当てることで一定の位置?圧力で超音波波形を取得することが可能であり、新アルゴリズムの正解率向上につながると期待できるほか、超音波波形を手作業ではなく自動的に取得できるため、より現場での活用を効率化すると考えられます。後藤教授らは、「本技術は、水産商社や漁港などでベルトコンベア式に冷凍マグロの品質検査をする際に適用することで鮮度や美味しさ(脂分)の自動一括検査が可能となることから、2024年1月に試作機を用いて現場実証を行い、実現化を目指していきます」と話しています。
※水産学科の後藤教授が富士通との共同研究でAIを活用した冷凍マグロの品質評価を非破壊検査で実現する世界初の手法を開発しました
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富士通株式会社のPRサイト「富士通 広報note」でも紹介されました。
全体の5%程度しかない脂の乗ったビンチョウマグロを発見する超音波AI技術と開発者の想い