医学部6年次生の高野憲征さんがドイツ?ベルリンで5月6日に開催された「第4回日本漢方医学国際シンポジウム」で、本学の学生として初めて研究成果を発表しました。このシンポジウムは、日本の漢方を学んだ英語圏の医師らによって2009年に設立された日本漢方医学国際学会(ISJKM=International Society for Japanese Kampo Medicine)が、学術交流や研究発表を目的として2年ごとに開いているものです。高野さんによる「臨床推論に基づいた漢方鑑別処方学習ソフトウエアの開発」と題した発表は、ドイツやイギリス、アメリカなどから参加した多くの医師や研究者らの注目を集めました。
高野さんは、患者の主訴や随伴症状を入力するだけで、病態改善に適した漢方薬を簡単に絞り込むことができる漢方学習の初心者向けのシステムを開発しました。「漢方医学における診断は随証治療と呼ばれる伝統医学に基づいています。これは、現代医学における臨床推論を中心とした診断方法とはアプローチが異なります。また、漢方医学では弟子が師匠の技を見ながら経験を通して学ぶ教育方法が主流のため、処方に至る過程が複雑で医学生はなじみにくいと感じていました。そこで、現代医学の臨床推論の考え方を用いて漢方の処方を特定できるソフトウエアを開発し、より多くの学生が漢方に興味を持つきっかけをつくりたいと考えました」と話します。シンポジウムでは高野さんの発表について、今後の展開や臨床への応用の可能性などについて、多くの質問や意見が寄せられました。「発表の準備は大変でしたが、『国際学会に参加する』という目標があったので頑張れました。国内外で活躍している漢方医や教育者、研究者らとネットワークができたことも大きな収穫です」と振り返ります。
「医師である父の影響で小学生のころから漢方薬を服用し、興味を持っていた」という高野さんは、日本大学生物資源科学部応用生物学科、同大学院生物資源科学研究科応用生命科学専攻を経て本学部に編入。2年次から新井信教授(専門診療学系漢方医学)の「漢方クリニカルカンファレンス」にも参加してきました。4年次に新井教授の漢方実習で使った「患者さんの諸症状と漢方処方をマッチングさせるための表」を見て、「ソフトウエア化できるのではないか」とひらめき、日大時代からの友人でシステムエンジニアの佐伯壽史さんに協力を依頼。実習や試験で多忙な中、時間を捻出して開発に取り組みました。「協力してくださった先生方や佐伯君に感謝しています。当面の目標は、試験を重ねてソフトウエアの有効性を証明して論文にまとめ、2年後に開かれる同シンポジウムで発表すること。さらに、処方の解説などを加えて完成度を高め、専門家も利用できるようバージョンアップを図っていきたい」と意欲的です。
指導にあたった中田佳延講師は、「高野さんが開発したソフトウエアを利用することで、学生たちが日本の漢方医学により興味を持ってくれることを期待しています。西洋医学と漢方医学がそれぞれの特徴を生かし、補いあって、より患者さんに有用な医療を提供していければうれしい」と話していました。
なお、高野さんは5月19日に、伊勢原キャンパスの研究者らが成果を発表する「ランチョンセミナー」でも学部生として初めて本研究の成果を発表。坂部貢医学部長をはじめ多くの教員や学生、大学院生に向けてソフトウエア開発について紹介しました。坂部学部長は、「医師のグローバルスタンダード化が進む中、日本の漢方医学を学んでおくことは大きなアドバンテージになる」と語り、「学部生が研究マインドを持ってくれていることをうれしく思います。ぜひ診療支援もできるソフトウエアの開発につなげてほしい」と激励しました。