医学部では、医学部付属病院の医療従事者や湘南キャンパスの体育学部、スポーツ医科学研究所、健康推進室などと連携し、国内外で活躍を目指すアスリートを支援する「スポーツ医学プロジェクト」の活動を展開しています。医学部と体育学部を擁する総合大学としてスポーツと医科学の有機的な融合を図り、日々のメディカルチェックなどを通じたトップアスリートの競技におけるさらなる成績向上をはじめ、故障時の即時診療、先進的な治療介入促進を目指すものです。昨年度から箱根駅伝などでの活躍が期待される陸上競技部駅伝チームのサポートを開始。今年度からは、柔道部や体操競技部、ラグビー部などにも支援の輪を広げています。
今年6月から7月にかけては、駅伝チームのパフォーマンス向上を目指して、選手ごとに強化練習前後での代謝と栄養の状況、心機能を測るメディカルチェックを実施。医学部付属病院で採血などの「アスリート検診」を行った後、学長室健康推進担当の宮崎誠司部長による協力の下、湘南健康推進室でその分析結果のフィードバックを3週間にわたって行いました。酒井大輔准教授(整形外科学)、網野真理准教授(救命救急医学)、鈴木太管理栄養士、西田修平薬剤師、野中拓馬理学療法士、大学院医学研究科博士課程の相馬葉月さんらのチームが検診結果を総合的に検討し、日々の食事でのエネルギー摂取状況と、隠れ貧血と呼ばれる体内の鉄分不足改善のポイントなどを解説。また、理学療法士からは、過去の故障個所と現在のコンディションに基づくトレーニングやストレッチ運動の要点を説明したほか、栄養士からは栄養摂取状況についての個別相談、薬剤師からはサプリメント摂取時の注意点、花粉症などの治療薬とドーピングの関係など選手個々の状況に合わせた指導を行いました。
駅伝チームの選手たちは、「これだけ自分の体について検査をしてもらったのは初めで、とても新鮮でした。現在のコンディションを理解できれば、調子が落ちた際の原因究明にもつながると思います」「今回のデータを生かせるようチームの先輩や先生方の意見を聞きながら取り入れていきたい。付属病院の先生方も駅伝を見てくれていると思うので、結果で恩返ししたい」とコメント。西出仁明ヘッドコーチ(体育学部准教授)は、「今回の計測結果を両角速駅伝監督(スポーツプロモーションセンター教授)ら指導陣で共有し、日々の選手たちへの指導に生かすことで、トラックレースや駅伝での好成績につなげられれば」と話しました。
また、駅伝チームへのフィードバックと同時に、湘南キャンパスで活動する体操競技部や柔道部などに所属し、参加を希望する選手に栄養指導やトレーニング、けがからのリハビリ指導も実施。日常的に摂取する食事の量や栄養素、それぞれが鍛えたい個所への負荷のかけ方、故障からいち早く復帰するためのリハビリ方法など選手個々の多様な悩みに、付属病院の専門家が適切なアドバイスを送りました。7月19日のアスリート検診結果フィードバックの終了後には、酒井准教授らと体育学部の内山秀一学部長、スポーツ医科学研究所の山田洋所長、西出ヘッドコーチらが出席し、酒井准教授から健診結果の内容や分析、今後の展望が説明されました。内山学部長は、「今回のような医体連携といった東海大の特色を生かして、駅伝チームにとどまらず幅広い運動部での活躍を目指す選手の競技力向上に協力してもらえるのはとてもありがたいこと。体育学部、スポーツプロモーションセンターに所属する各競技の指導者の先生方とも相談を重ね、今後のさらなる展開につなげていきたい」と語りました。
中心になって活動する酒井准教授は、「本病院に勤務する医療従事者の中にも、東海大アスリートたちをサポートし、好成績につなげてほしいと願うスタッフは多数いますが、伊勢原キャンパスと湘南キャンパスでは距離が離れていることもあり、なかなか具体的な協力体制を築きづらい部分もありました。今回の活動は“すべてはアスリートのために”と病院本部をはじめ、両学部、スポーツ医科学研究所、湘南健康推進室など多方面の協力を得て実現したものです。最初は箱根駅伝の王者奪還を目指す駅伝チームの支援から始まりましたが、陸上競技以外にも柔道やラグビーなど世界一、日本一を目指して頑張る学生はたくさんいます。本病院のリソースを生かし、積極的なバックアップを続けていきたい」と展望を語ります。
医学部付属病院の渡辺雅彦病院長は、「本プロジェクトは、学部の核となる次世代プロジェクトの一つとして立ち上がり、アスリート検診が実現に至るまで、院内の施設利用や携わる人材の確保、研究倫理にも配慮して準備を進めてきました。目指すのは体育学部の先生方に、気軽に関わってもらえるシステムの確立です。また、病院として選手たちのけがの治療などでも引き受け体制を整えていく考えです」とコメント。医学部長の森正樹副学長(医系担当)は、「医学部ならびに医学部付属病院では、『スポーツ医学』をはじめ、『災害医療』『ゲノム医療』など特色ある研究活動を展開しています。中でもスポーツ医学分野は、トップアスリートのサポートを通じて得た知見に加えて、海外の大学などとも連携して先進的な事例を取り入れていくことで、さらに広く市民の皆さんに成果を還元できるよう育てていかなくてはなりません。大きな目標に向けて今後も地道な活動を展開していきます」と話しています。