大学院医学研究科ライフケアセンター(センター長:石井直明教授)とキリン株式会社健康技術研究所ではこのほど、プラズマ乳酸菌(Lactococcus lactis JCM5805株)の摂取によって細胞中でウイルスの増殖や拡散を防ぐ重要なウイルス防御物質として注目を浴びているビペリン遺伝子の発現量が、摂取前と 比較して2倍以上に増加することを確認しました。臨床試験で食品摂取によりビペリン遺伝子の発現量が増加することを確認したのは世界で初めてです。この成 果は1月23日に開催された第25回日本疫学会学術総会で発表しました。
この共同研究では、プラズマ乳酸菌(JCM5805株)の感冒およびインフルエンザに対する効果を検証する大規模な臨床試験を実施しており、2014年 11月に行われた第73回日本公衆衛生学会総会において咳や喉の痛みなどの上気道炎症状を軽減することを報告しています。今回、さらに血液中の免疫指標の 解析を行い、先に報告した上気道炎症状の改善はプラズマ乳酸菌(JCM5805株)によってビペリン遺伝子の発現上昇によりウイルス抵抗力が高まっていた ことに起因していた可能性が示唆されました。
感冒およびインフルエンザに対する効果を検証する大規模臨床試験では、18歳から39歳までの健常者657名を対象に、試験食品にプラズマ乳酸菌 (JCM5805株)の乾燥菌体を50 mg(1000億個以上)含むカプセルを摂取するグループ(プラズマ乳酸菌摂取群:329名)と、乳酸菌を含まないカプセルを摂取するグループ(プラセボ 群:328名)の2群に分けて、インフルエンザの流行期に12週間、かぜ症候群およびインフルエンザ様疾患の上気道炎症状、体調等の自覚症状を評価しまし た。
今回、さらに参加者657名のうち、プラズマ乳酸菌摂取群68名、プラセボ群66名の134名について試験食品摂取開始前と摂取終了前の血液中の免疫指標 評価を行いました。その結果、血液中の免疫細胞の抗ウイルス関連遺伝子の発現解析において、ウイルス防御に重要な役割を果たすビペリン遺伝子の発現量が、 プラセボ群では変動が見られなかったのに対して、プラズマ乳酸菌摂取群ではプラズマ乳酸菌(JCM5805株)摂取後に摂取前と比較して2倍以上に増加 し、統計的に有意であることを確認しました。
ウイルスは大きく分けて(1)感染細胞内で増殖、(2)細胞外に放出の2ステップで感染を拡大させますが、ビペリンはその両方のステップを阻害することが 知られている、いわば「ウイルスに対するバリア」因子です。さらにさまざまなウイルスに対して効果が示唆されており、インフルエンザウイルスやHIV、C 型肝炎ウイルス、デングウイルスにおける効果が報告されています。今回の臨床試験で示された研究成果は非常に重要なものであり、乳酸菌のさらなる研究につ ながっていくものと考えられます。