医学部医学科の今井仁講師(総合診療学系健康管理学領域?総合医学研究所)らの研究グループが、潰瘍性大腸炎の新たな診療につながるデジタルバイオマーカー(ウエアラブル端末などから取得した病状の変化に関する指標)を同定。その成果をまとめた論文「活動性潰瘍性大腸炎における心拍変動のバイオマーカー探索のためのスマートウオッチを使用したパイロット?スタディ」が12月27日に、日本炎症性腸疾患学会の公式提携国際誌『Inflammatory Intestinal Diseases 』オンライン版に掲載されました。この研究は、今井講師が2022年度に総合研究機構「クラウドファンディング型社会発信研究補助計画」の採択を受けて挑戦したクラウドファンディングによる寄付金を活用し、本領域と内科学系消化器内科学領域の研究者らと取り組んだものです。
潰瘍性大腸炎は栄養の吸収不足や貧血などを引き起こす難病で、10代から30代の若者に多く発症します。近年、治療薬は飛躍的に進歩しましたが、ストレスや食事などの少しの変化でも症状が悪化し、寛解と再燃を繰り返すため、患者は常に不安を抱えながら生活しているのが実情です。今井講師らは、患者の不安を軽減するとともに適切な治療につなげるため、スマートウオッチを用いて自分の状態をリアルタイムで把握する方法を研究。潰瘍性大腸炎が活動期にある複数の患者にスマートウオッチをつけてもらい、心拍変動などを24時間、3カ月にわたり測定?解析しました。その結果、夜間における副交感神経の活動度を示す心拍変動の指数が、潰瘍性大腸炎の疾患活動度と反比例し、服薬により副交感神経指数が正常に戻ることなどを見出しました。
今井講師は、「心拍変動を用いた潰瘍性大腸炎のデジタルバイオマーカーとしては日本で初めての同定となり、かつ、手軽に入手できる市販のスマートウオッチで腸の状態を把握できることを明らかにすることができました。患者さんが日々の不安を和らげたり通院回数を減らしたりできる可能性があり、デジタルヘルスマネジメントにおける大きな一歩となったと考えています。この成果が、世界で進められているデジタルバイオマーカーの研究に貢献し、患者さんのために役立てられればうれしい。支援してくださった方々への感謝を忘れず、よりよい医療の提供に向けてさらに努力したい」と話しています。
【共同研究者のコメント】
◇総合診療学系健康管理学領域 西﨑泰弘主任教授
私たち健康管理学領域では、日常の動作を記録することが変化または非変化を把握する上で重要であり、これまでもウエアラブル端末(WD)を用いた研究を行ってきました。本研究論文は、クラウドファンディング(CF)による資金で行われた成果であり、CFならびにWDが、医学研究において今後ますます有用性を発揮することを示した貴重な業績と言えます。
◇内科学系消化器内科学領域 鈴木秀和教授
我々のチームは本研究で、潰瘍性大腸炎患者の心拍変動を、Bluetooth経由でスマートフォンに接続されたFitbit Inspire2?で測定しました。その結果、夜間心拍変動が 潰瘍性大腸炎の疾患活動性と関連することが分かりました。現在、特殊な採血をしないと分からない疾患活動性を、リアルタイムに測定可能なデジタルバイオマーカーで分かる時代がくると期待され、まさに、医療DX時代に向けた大きな一歩になりました。
【クラウドファンディングで一定額のご支援をいただいた方のご芳名】※五十音順
市川仁志様 内山直樹様(医療法人社団茅青会理事長) 壁谷悠介様 北村幸太郎様 滝口修平様 滑川陽一様 馬場彰泰様 村瀬達彦様
ご協力ありがとうございました。
※『Inflammatory Intestinal Diseases』に掲載された論文は、下記からご覧いただけます。
https://karger.com/iid/online-first
※今井講師のクラウドファンディングに関する研究活動はこちら(「academist」のサイト)からご覧いただけます。
https://academist-cf.com/projects/285/progresses?lang=ja