医学部看護学科の金児-石野教授らがウイルス由来のPEG10遺伝子の胎盤機能維持機構を解明しました

医学部看護学科の金児-石野知子教授と山梨大学大学院の志浦寛相助教、幸田尚教授、東京医科歯科大学の石野史敏名誉教授らの研究グループがこのほど、哺乳類が持つウイルス由来の遺伝子PEG10が胎盤の血管構造維持に必須であり、妊娠中期から後期における正常な胎児の成長に重要な役割を持つことを解明。その成果をまとめた論文が9月24日に、国際科学雑誌『Development』オンライン版に掲載されました。

PEG10は、哺乳類の中でもカンガルーなどの有袋類とヒトやマウスなどの真獣類のみが持つ進化上新しい遺伝子です。金児-石野教授らはこれまでの研究で、PEG10が太古の昔に哺乳類の祖先のゲノムに入り込んだウイルス由来の遺伝子であり、妊娠中の胎児の発生や成長に不可欠な胎盤の初期発生に必須であることなどを明らかにしてきました。その後もこの遺伝子の詳細な働きを調べるため、遺伝子の機能の一部を欠損させた数種類のモデルマウスによる研究を継続。PEG10が持つプロテアーゼ活性(タンパク質を切断?分解する機能)の欠損が胎児のへその緒につながる胎盤内の胎児毛細血管に重度の損傷を引き起こし、母体と胎児の間のガス?栄養交換不全となって胎児の成長不良や致死性につながることを突き止めました。

この結果について金児‐石野教授は、「PEG10遺伝子の元になったウイルス由来の遺伝子のプロテアーゼ活性機能が哺乳類の進化の過程で巧みに利用され、胎盤構造維持に必須の機能に変化?応用された貴重な事例だと考えられます。本研究グループでは、PEG10と同じ起源を持つRTL1遺伝子がPEG10と同様に胎盤内の胎児の毛細血管の維持に必須であることを見出しており、今回の結果から、これらが協調して働いていることも示唆されました」と説明します。

金児-石野教授は、東京大学理学部生物化学科を卒業後、同大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程を修了し、理学博士を取得。30年にわたり、ウイルス由来の遺伝子の探索とその機能解析に取り組んできました。「遺伝子の働きを調べるためには、遺伝子改変マウスやiPS細胞を使った地道な実験研究が不可欠。膨大な手間と時間とエネルギーが必要ですが、それでも続けているのは、自由な発想で追究できる最高に面白い“ミステリー”だから」と研究の魅力を語ります。「これまでに、RTL1PEG10のほか9個の関連遺伝子を同定しています。その一つひとつの機能を解析するとともに複数の遺伝子による協調的な作用を包括的に調べ、哺乳類の進化の謎に迫りたい」と話しています。

なお、『Development』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://journals.biologists.com/dev/article/148/19/dev199564/272286/