医学部医学科専門診療学系耳鼻咽喉科?頭頸部外科学の和佐野浩一郎准教授と慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室の都築伸佳共同研究員(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター聴覚平衡覚研究部研究員)、大石直樹准教授らの研究グループが、突発性難聴と動脈硬化の関連性を解明。その成果をまとめた論文が12月13日に、科学雑誌『Scientific Reports』オンライン版に掲載されました。
突発性難聴は、突然、左右どちらかの耳(まれに両耳)の聞こえが悪くなる原因不明の疾患で、年間の罹患者数は10万人あたり60.9人(厚生労働省2012年調査)と報告されています。副腎皮質ステロイド薬の投与を中心にさまざまな治療が行われていますが、治癒率は30~40%程度にとどまっており、原因や病態の解明が待ち望まれていました。
そこで研究グループでは、糖尿病などの動脈硬化因子をもつ突発性難聴患者が比較的多いという臨床における事実と、動脈硬化因子が突発性難聴の重症化の要因になるとの複数の報告に着目。6医療機関(川崎市立川崎病院、慶應義塾大学病院、国立病院機構東京医療センター、済生会宇都宮病院、静岡赤十字病院、平塚市民病院 ※50音順)の協力を得て、突発性難聴762症例について、聴力、治療方法をはじめ、糖尿病や血管疾患の既往といった動脈硬化因子に関する詳細なデータを解析しました。その結果、動脈硬化因子が患側(突発性難聴を発症した耳)の重症化だけでなく健側(突発性難聴が発症していない耳)の難聴にも関連しており、また、健側に中等度以上の難聴があると突発性難聴が治癒しにくいことを明らかにしました。さらに、動脈硬化の治療薬である抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)の内服が突発性難聴の非治癒に関連するという結果も見いだしました。
和佐野准教授は、「突発性難聴の発症には多様な原因が考えられますが、どのような原因によってどのような病態になるかは明らかにされていません。その疾患概念を原因?病態別に区分できれば、診断の精度を高めるとともに、特異的?効果的な治療法が開発できると考えられます。今回の成果も、主に内耳への血流障害を原因とした突発性難聴の臨床像の解明や、内耳出血、内耳梗塞の適切な診断方法の確立につながると期待されており、将来的には、血管障害性難聴の疾患概念を突発性難聴から独立させて診断?治療できる可能性もみえてきます。本研究は、そうした原因?病態別治療法を実現する端緒になるものと考えています。突発性難聴で苦しむ患者さんを救うため、さらに研究を進めていきます」と話しています。
※『Scientific Reports』に掲載された論文は下記URLからご覧いただけます。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-25593-5