医学部付属病院腎泌尿器科の小路直准教授を実施責任者とする「高密度焦点式超音波療法を用いた前立腺癌標的局所療法」が、昨年12月8日に開催された厚生労働省の先進医療合同会議(第117回先進医療会議 第142回先進医療技術審査部会)で、「先進医療B」として「適」と判定され2月1日から適用されました。先進医療とは最新の医療技術の有効性や安全性などを臨床現場で評価し、健康保険適用の可否を判断する制度です。先進医療に認定された医療技術による治療は一定の施設基準を満たした医療機関のみで実施され、健康保険診療との併用が認められます。
前立腺は、男性の尿道を取り囲むようにして膀胱の下部に位置する臓器です。前立腺がんの患者数は増加傾向にあり、2017年以降、男性の部位別の罹患数が1位(国立がん研究センターがん統計)となっています。従来から行われている手術や放射線による治療は前立腺全体を治療するため、排尿や性機能が損なわれる場合があることが課題になっていました。今回、先進医療Bに認定された治療法は患者の予後に影響すると考えられるがん病巣のみを治療し、正常な組織を可能な限り残せるため、排尿や性機能を温存し、QOL(生活の質)を維持できる治療として注目されています。
この治療は、がんの分布が前立腺の一部分に限られている患者に適用されます。がんの場所や形状、大きさを高精度に診断できる「MRI‐TRUS融合画像ガイド下前立腺生検」を併用し、生検により特定したがんとその周辺のみを、直腸に挿入した器具から超音波を照射して壊死させます。治療に要する時間は1時間程度で、体にメスを入れない低侵襲のため入院期間は2泊3日で済みます。
小路准教授は、「この診断法は2013年、治療法は2016年にそれぞれ臨床研究として医学部付属八王子病院で開始しました。診断法は昨年4月に保険収載(健康保健適用)されており、今回の認定は治療法についても保険収載に向けての大きな前進となります。この認定により、本治療が科学的根拠を持った方法として臨床研究としての実施が認められるとともに、治療の選択肢が増える可能性を期待させます。診察費や入院費といった本治療に係る以外の費用は健康保険の対象となるため、患者さんの経済的な負担も軽減されます。本治療が適用できる患者さんの多くは、排尿の問題を気にせずに社会で活躍できるようになると期待されます。高齢化が進み、前立腺がんの患者さんが増える中、医師として、より多くの方の豊かな“人生100年”をサポートしたいと考えています」と話しています。