医学部医学科の今井仁講師(総合診療学系健康管理学領域/総合医学研究所)が、10月5日、6日に東京都内で開催された第60回日本消化器免疫学会総会(第51回日本臨床免疫学会総会と合同開催)で、「クローン病の病原性共生菌に対するIgA抗体の誘導と保菌者診断への応用」をテーマに研究成果を発表。若手研究者による優秀な演題に贈られる奨励賞を受賞し、金井隆典会長から賞状が授与されました。
クローン病は、消化管に炎症や潰瘍、腸管狭窄が起こり、腹痛や栄養吸収障害によって著しいQOLの低下を招く原因不明の難病です。薬物や手術による治療が行われていますが完治は難しく、新たな治療法の開発が待ち望まれています。今井講師はこれまの研究で、クローン病の原因となる病原性共生菌「AIEC」(接着性侵入性大腸菌)に特異的に反応する抗体「IgA」を同定。日本消化器免疫学会総会ではこの成果とともに、IgAを人工的に合成したIgAモノクローナル抗体を活用し、ヒトの糞便検体中から大腸菌の保菌の有無を調べる新たな診断法に関する研究結果を報告しました。
今井講師は、「常に腸内細菌と接している消化管の免疫応答は全身に影響を及ぼすことが知られ、臓器を超えた学問領域へと進化しています。各疾患に関連する腸内細菌や特殊な免疫細胞の同定が報告される中、そうした成果を臨床につなげるトランスレーショナルリサーチが特に重視されており、今回の受賞は、これまで取り組んできた研究が臨床につながる可能性を有する成果として評価していただいたと受け止めています」と話します。
「この研究は、本学科の消化器内科学、健康管理学、生体防御学領域や総合医学研究所の研究者をはじめ、生命科学統合支援センターの技術職員の方々など、多くのスタッフの支えによって継続しています。特に今回発表した成果については、無菌動物実験を扱う精神科学領域の皆さんに支援していただきました。協力してくださった方々にあらためて感謝します。今後は、複数のモノクローナル抗体を組み合わせることでより精度の高い診断技術への応用を目指すとともに、患者さんの腸内細菌叢から特定の細菌のみを排除する新しい治療技術の確立に向けて、さらに努力していきます」と意欲を見せています。