政治経済学部政治学科では7月18日に湘南校舎で、NPO法人Wake UP Japanの理事である長川美里氏による講演会「近くて遠いと言わない社会を創る―東アジアの市民が創る開かれた平和教育の実践―」を行いました。
長川美里氏は2020年に「東アジア平和大使プロジェクト」を立ち上げられたり、世界経済フォーラムより任命されるGlobal Shapersとして、北東アジア地域のCommunity Championを務めたりされたほか、2023年ダボス会議へ参加する世界の50名のユース、ダボス50へ選出されるなど、東アジアの次世代の和解と共生に情熱を注ぐプロジェクトにたずさわってこられました。講演は、豊富な経験に基づき、受講生との対話を重視しながら行われました。
まず議論の前提として、長川氏は中国や韓国に対して「親しみを感じますか?」という素朴な質問を学生たちに投げかけたうえで、直近の日中韓世論調査の結果を紹介しながら、私たちの隣国に対するイメージにおいて、⑴私たちはそもそも「人」の話をしているのか、それとも「国(政府)」の話をしているのか、⑵東アジアで対外感情が相互に悪化しつつある傾向は、時間が解決するのか否か、⑶相互に「親しみを感じない」とする直近の世論調査の回答について具体的に何を指しているのか?という三つの問いかけを行い、受講生たちの対外認識における議論の前提を見直す必要性について語られました。
そして、ご自身が高校時代にアメリカ留学時にアジアの友人に多く恵まれたこともあって、大学在学中から国際交流や国際理解の活動に積極的に参加していたという経験について紹介しながら、当時参加していた日中韓ユースフォーラムの活動のなかで中国からの参加者からアジアの私たちは「(地理的に)近いのに(心理的に)遠いですね」と言われた言葉が心に大きく残ったことをきっかけに、「近くて遠いと言わない社会を創る」ことを目指し、NPOの活動を始めたというエピソードを語ったうえで、どうやったらそれが実現できるのか、受講生とともに考えていきました。
また、長川氏はそうした問題意識をふまえて、戦後七十八年も経って日中韓の国際関係にはどうしてここまで問題が残されているのだろうか?という疑問を受講生に提示したうえで、日中韓キャンパスアジアプログラムに参加して韓国と北京にそれぞれ長期留学された大学院時代のご自身の経験から論を進められました。長川氏は、韓国や中国に留学中には、ともすれば日本との関係において領土問題や歴史認識などの政治や歴史が強調されすぎているように感じていたものの、日本に帰国後に意識的に探せば、アジアの他者から見た時に日本にも同様に日本社会における政治的に正しいとされる歴史観や政治的主張、とりわけと時には排他的なナショナリズムまでも観察できるようになったという経験を示し、越境することによる他者への先入観の是正や自己の社会への相対化の重要性を語られました。
最後に、長川氏は、グローバル化が進む現代社会で時に関係が悪化することもある中国や韓国などのアジアの国々と日本人が関係なく生きていくことはできないということ強調し、私たちひとりひとりが「誰と、どんな社会で、どう生きたいのか?」という問いを見つめ直し、そのために人が人と出会うきっかけ、話すきっかけを大事にして頂きたい、というメッセージで講義が締め括られました。
長川氏による特別講義をアレンジした政治学科の平井講師は、「コロナ禍などの危機を経て米中対立や東アジア情勢が厳しさを増すなか、国際的にも国内的にも社会の分断が加速されていくような現代こそ、長川先生のように他者性を兼ね備えた倫理観にもとづく積極的な人的交流が求められている。世代の近い長川先生のお話に刺激を受けて、受講生の皆さんもどんどん自らの興味関心のあるテーマに飛び込んで一人の個人として他者と関わる経験を積んで欲しい」と話していました。