大学院理学研究科数理科学専攻修士課程1年次生の大河内菜月さん(理学部数学科2022年度卒業、指導教員=山本義郎教授)が、「パネルデータを用いた進学と就職時による人口流出の要因分析」と題した論文を、独立行政法人統計センターが主催する「統計データ分析コンペティション2023」に応募。昨年10月18日に審査結果が発表され、大学生?一般の部で「審査員奨励賞」を受賞しました。
このコンペは、同センターが総務省統計局等と共同し、文部科学省や国立研究開発法人科学技術振興機構、一般社団法人日本統計学会などの後援を得て2018年度から開催しています。同センターが作成?公開している統計データSSDSE(教育用標準データセット)などを分析し、アイデアと解析力を競うことで統計リテラシーの向上を図ることを目的としています。
大河内さんは、地方から都市に人口が流出する要因として、若者の大学進学と就職に着目。2008年から19年までの都道府県別に複数の項目を継続的に調べたパネルデータを使い、10代後半から20代前半の各都道府県の人口流出率と、進学?就職に関するさまざまな指標を分析しました。その結果、高校卒業者の就職率と有効求人数、県内従業率、一人当たりの県民所得が人口流出に影響を与えることを明らかにし、県内における雇用機会の向上と地元に住みながら県外で従業できる環境づくりが人口流出の抑制策であるとの結論を導いて提案としてまとめました。
大河内さんは、「各都道府県の大学数や通学?通勤時間に至るまで幅広いデータを集めて分析を繰り返し、結果をグラフや表に落とし込んで“見える化”しながら検討しました。試行錯誤の連続でしたが、賞をいただいたことで自信につながりました」と話します。「小学生のころからパスカルやオイラーといった数学者に興味があった」という大河内さんは、大学で本格的に数学を学ぼうと本学理学部数学科に進学。「統計学は、多様なデータの分析によってあいまいな問題を明確にし、自分の力で課題解決の方法を見いだせる実践的な学問。将来は統計学の魅力を伝えるとともに、データサイエンティストとしてのスキルを向上させて社会に貢献したい」と話します。
山本教授は、「大河内さんは多様なデータの組み合わせの検討はもちろん、各都道府県の特殊性や県民性なども加味して丁寧に分析を積み重ねました。そのアイデアや粘り強い作業が説得力のある提案を生み出し、受賞に結び付いたと思います。将来、どのような分野のデータ分析を依頼されても、当該分野についてしっかりと学ぶとともに、依頼主と互いの得意分野を補い合ってよりよい成果を生み出せる関係を築き、“相談してよかった”と思ってもらえる人材になってほしい」と期待を語っています。