理学部では4月8日から10日まで湘南キャンパス18号館で、「SID International Workshop」を開催しました。このワークショップは、カーボンナノチューブやグラフェンなどの新素材に関するナノ物性物理における最先端の未解決問 題について、全世界の研究者の研究の基本的な指針となりうる新しい可能性を追求することを目的に開催したものです。チャオ?ツアン教授(オーストラリア? ウォロンゴン大学)、ジョンバエ?ホン博士(韓国?浦項工科大学校)、徳山道夫教授(東北大学)、十河清教授(北里大学)、豊田正教授(理学部物理学科) の計5名の専門家が集まり、本学の学生も交えて3日間にわたって議論しました。
10日には各研究者による講演も実施しました。開会にあたっては、本ワークショップの組織委員長を務めた物理学科主任の新屋敷直木教授があいさつし、物理 学科における最近の研究活動の紹介と、3月に竣工したばかりの18号館の概要を説明しました。その後、ツアン教授が登壇。電磁量子物性について、レーザー 工学では物質中の光速を著しく減速し光を物質内に閉じ込めることも可能な電磁誘導透過と呼ばれる技術の開発競争が世界規模で進められている現状を紹介。ツ アン教授のグループが、量子ドットと呼ばれるナノデバイスの中で、電子の量子力学的波動性についても同様な現象が確認できることを理論的に予言し、これに よってナノサイズの超高速電子デバイスの開発が可能になることなどについて、未発表の部分も含めて詳しく解説しました。続いてホン博士が、電子スピン系の 観点から講演。金属に極めて微量の磁性不純物を加えると電気抵抗に著しい異常が現れる近藤効果が、電子物性の中で重要な現象であることや、ナノスケール量 子ドットにおける近藤効果は従来にない特徴を持ち、そのメカニズムの解明は量子ドットの物理を解明する鍵となるため、国際的な研究競争となっている現状を 紹介。ホン博士とその実験グループは位相整合電子浴モデルを提唱し、これまで未解決の諸問題を一挙に解明することに成功したことを踏まえつつ、この新モデ ルについての詳しい解説と理論のさらなる発展に向けての構想を語りました。
また徳山教授は講演で、量子ドットや量子井戸における電子の運動を決定する基本法則は量子多体論と非平衡統計力学理論であることを説明。世界的に非常に高 い評価を受けている非平衡に関する徳山理論について、最近の発展も含めて詳しく解説し、ナノ物理に関してスーパーコンピュータによる大規模数値計算の重要 性を強調しました。最後に登壇した豊田教授は、グラフェンで観測された量子ホール効果は2005年に科学雑誌『ネイチャー』誌で報告され以来、世界規模で その物理的メカニズムの探求が進められてきましたが、2012年に豊田教授とツアン教授によって初めて解明されたことを説明。その後の理論の発展と今後の 可能性について講演しました。
運営を担当した豊田教授は、「3日間にわたって極めて密度の濃い情報交換と議論を行い、今後数年間での具体的な研究課題とそのための指針を明確にすること ができました。数年以内に各課題は注目すべき成果を生み出し、学術的論文として『Physical Review Letters』誌などの世界的に最も権威ある学術誌に掲載される可能性が極めて高いと思われます。参加者は各分野における世界的権威であり、ハイレベル の実質的ワークショップとなりました。また、参加者全員から新しい18号館の建物としての美しさと、その機能と基本コンセプトを絶賛され、今後もぜひこの 校舎で国際ワークショップを開催してほしいとの提案を受けました」と成果を話しています。