伊勢原キャンパス学生相談室が12月9日、哲学者で上智大学名誉教授のアルフォンス?デーケン氏を迎え、伊勢原キャンパスの講堂でセミナー「生と死の意義 を考える-ユーモアのすすめ-」を開催しました。学生が直面する幅広い問題の相談に応じている学内専門機関である同相談室が啓発活動の一環として、学生の 人間形成と創造的なキャンパスライフのサポートを目的に毎年開催しているものです。例年、各分野の第一線で活躍している専門家を講師に招いており、今回は 学生や教職員、医学部付属病院関係者ら115名が聴講しました。
デーケン氏は1959年に来日。30年以上も前から「死への準備教育」の普及に取り組むなど、日本における死生学の第一人者として活動を続けています。講 演の前半では、「死への準備教育とは決して暗いものではなく、命を限りあるものだと認識し、”いかに生をまっとうし、自分らしい死を迎えるかを考えるこ と”」と語りました。また、「死には”肉体的な死”のみならず、”心理的””社会的””文化的”な死という4つの側面があるため、クォリティ?オブ?ライ フ(生命や生活の質)の向上を目指すには心の癒やしが不可欠です」と指摘。「音楽療法」や「ペット療法」などの新しいアプローチの重要性を強調しました。 さらに、遺族がたどる悲嘆のプロセスを説明し、「立ち直る段階での心の癒しには、同じ体験を持つ人との分かち合いが必要」との考えから、病院内での”悲嘆 ケア”の実現への期待を語るとともに、学校教育での必要性も訴えました。
後半でデーケン氏は、「死への過程」について、キューブラ=ロスによる「否認」から「受容」までの5段階に加えて、「期待と希望」の6段階目があると述べ ました。ここでの「期待と希望」とは、単に病が治るという期待や希望のみではなく、病をもちつつも痛みなく生きていくという希望や、死を迎えるにしても孤 独に死ぬのではないという希望なども含まれると話しました。
デーケン氏は最後に、「ユーモアとは”にもかかわらず笑う”こと」という母国ドイツの有名な定義を紹介。「たとえ苦しんでいたとしても、相手に対する思い やりとして笑顔を示すことが大切。ユーモアは、はりつめた雰囲気をほぐして人々の間に温かい気持ちの通う関係を作り出す魔法です。困難なときにこそ、笑顔 とユーモアを示しましょう。そうすれば患者さんだけでなく医療従事者も自身も癒やされます」と実感を込めてアドバイスを送りました。終了後は会場との間 で、「海外と比較した日本の医療の質」「子どもへの告知」などをめぐり活発な質疑応答が展開されました。
聴講した医学部の学生からは、「日本人は死について語るのをタブー視しがちですが、デーケン先生は率直にユーモアを交えて死について語ってくれました。死 の過程にいる患者さんにも期待や希望を抱いてもらえるような医師を目指したい、と強く感じました」といった感想が聞かれました。