現代教養センターの東慎一郎准教授がこのほど、フランスの文芸?人文分野で最も権威ある学術団体アカデミー?フランセーズのマルセル閣下賞に日本人で初めて選出され、昨年12月12日に同国で開かれた表彰式に出席しました。アカデミー?フランセーズは、人文学、文芸、芸術の各分野の代表的専門家によって構成されるフランス最古の学術団体で、17世紀にルイ13世の宰相リシュリューの指令で発足しました。文芸や演劇、評論、歴史学、社会学等の優れた業績に対し、毎年60件あまりの賞を授与していますが、マルセル閣下賞は、第1回の1973年以来、前年に出版されたルネサンス関連の研究(歴史、文学、芸術、哲学等)の中から優れた2件に贈られてきました。過去にはフランスにおける著名なルネサンス思想研究者も多数選ばれており、日本人の受賞は初めての快挙です。
東准教授は2018年に出版した著書『16世紀の数学論』(Penser les mathématiques au XVIe siècle,Paris: Classiques Garnier)が評価されました。同書では16世紀にヨーロッパで数学の論理構造や考察対象を巡って起きた論争とその背景を研究し、それが古代ギリシャ哲学以来の長い伝統に根ざすことを明らかにするとともに、17世紀にガリレオやデカルト、ニュートンらが近代科学を発展させた出来事についても、新たな視点から見直す必要性を示唆しています。東京大学大学院で始めた研究をもとに、ラテン語の文献を読み込んで仕上げた500ページ近い大作です。
東准教授は、「私のような地味な研究が評価されるとは、哲学をはじめとする人文学がいかにフランスで重視されているかを実感しています。今後は、これまで通り現代科学技術文明の諸問題を意識しつつも、より広く学問論の歴史を調べてみたい」と話しました。