伊勢原支援学校伊志田分教室で石こう彫刻の造形授業(ワークショップ)を実施しました

ティーチングクオリフィケーションセンター(TQC)では6月12日から7月14日にかけて、神奈川県立伊勢原支援学校伊志田分教室で同校高等部1年生15名を対象に、石こう彫刻の造形授業(ワークショップ)を実施しました。これは2020年から神奈川県と本学が協働で展開する「ともいきアートサポート事業(創作×地域展示)」の一環で、県の掲げる「ともに生きるかながわ憲章」の理念の実現に向けて、誰もが文化芸術を楽しみ、芸術を通じて人と人とをつなげることを目的として、21年度、22年度に続いて実施したものです。

3回にわたるワークショップでは、講師に彫刻家の宮坂慎司氏(筑波大学芸術系助教)と高見直宏氏を迎え、本センターの篠原聰准教授が指導する「博物館実習」を履修し学芸員を目指す学生たちが各回4名ずつ参加しました。1回目のワークショップでは、宮坂氏の指導でレリーフやメダルなどの彫刻技法や平面の造形表現を学びました。2回目は、高見氏の指導で凹凸が逆になる陰刻技法や立体の造形表現を学び、3グループに分かれて「大山」をテーマに石こう彫刻の制作に挑戦。篠原准教授や学生らがサポートし、生徒たちは出来上がりのイメージを考えながら左右を逆にした文字や模様など繊細な表現にも丁寧に取り組み、大きな粘土の塊を掘り進んで型を造り石こうを流し込みました。

最終日となった7月14日は、生徒たちが石こうを流し込んで制作した彫刻の鑑賞会が行われました。生徒たちはまず、高見氏や篠原准教授、学生らの協力を得て、グループごとに大きな粘土の塊の中から石こう彫刻を取り出していきました。最初は大胆に粘土を取り除いていった生徒たちは、彫刻が見えてくると真剣な表情で竹串やブラシなどを使って徐々に粘土を取り除いていく繊細な作業にも向き合いました。1時間ほど作業を続け、粘土の型づくりで苦心した文字や紋様がはっきり見えると、生徒たちからは歓声が上がりました

その後、粘土で汚れた机をきれいにしてグループごとに作品を展示。高見氏から「真ん中に置かなくてもよいので、作品を置く位置を考えてください。これも大事な制作過程です」とアドバイスを受け、生徒たちは慎重に作品を設えました。鑑賞会では、作品のタイトルとそこに込めた思い、制作過程で感じたことなどを一人ずつ発表。生徒からは、「皆で一緒にできてとても楽しかった」「顔のような模様やいろいろな言葉を付けたので“カオス山”と名付けたい」などの感想がありました。生徒たちをサポートした学生は、「最初は不安でしたが、皆が話しかけてくれるうちに打ち解け、自由でしっかりした発想に圧倒されました。これからも一人ひとりの感性を大事にしてほしい。一緒に取り組めたことで私自身も多くの気づきがあり、このような機会がこれからも多くあればよいと思います」と話しました。

高見氏は「皆が楽しいと言ってくれたことで、この場が一緒にアートを楽しもうという『ともいきアート』そのものだと感じました」と手応えを話しました。同校の教員からは、「先生方や学生さんのサポートで皆が好きなように自由な発想で彫刻を作り、それが集団で一つの作品になったのは素晴らしいことだと思います」「表現をめぐり真剣に話し合ったり手を動かしたり、皆のいつもとは違う一面を見ることができてよかった」などの声が聞かれました。

ワークショップを主導し、学生たちを指導する篠原准教授は「同じ『大山』というテーマなのに三者三様、タイトルや印象がまるで違う作品ができたことは興味深いです。生徒たちには、ワークショップで体験した手の感覚を覚えておいてほしいと思います。近代化により忘れがちになっている触覚を呼び覚まし、見るだけでは気づかないことを感じ取ることは、多様化が進む社会で人々がより豊かに暮らせるきっかけになります。学生たちにとっては共生社会における博物館の新しい教育普及(アウトリート)のあり方を学ぶ貴重な経験になりました。伊勢原支援学校の生徒さん、先生方のご協力のおかげです」と話しています。なお、今回生徒が制作した作品は、高見氏の作品とともに来年1月に湘南キャンパスの松前記念館(歴史と未来の博物館)で開催されるエントランスロビー展「手の世界制作」で展示する予定です。