カルシウムイオン濃度変化に合わせて活性を変調させる生体適合型の酸化還元触媒開発に成功 ~筋ジストロフィーなどの治療見据え、新たなプロドラックデザインの基盤を構築~(医薬総合研究部門?荒井堅太准教授) 

本学理学部化学科准教授の荒井堅太(先進生命科学研究所兼務)および総合理工学研究科総合理工学専攻材料?化学コース2年次生の三神瑠美らで構成する研究グループは、細胞内のカルシウムイオン濃度に応答して、酸化還元活性強度を変調させる生体適合型触媒の開発に成功しました。

人工的に作られる化学触媒は、細胞内代謝を制御する薬剤として高い可能性を有しています。しかし、従来の触媒化学では、触媒活性と細胞毒性が二律背反の関係にあり、細胞内で適切に触媒活性を発揮させることは困難でした。触媒化学と生物学の接点におけるこの重大な問題を克服するため、本研究グループは、特定のタイミングで触媒活性を発揮することができる新たな生体適合型の酸化還元触媒「アロステリック触媒」を開発しました。同触媒は、細胞内の酸化還元状態を制御している重要因子のカルシウムイオン濃度の変化に応答し、タンパク質の構造化(酸化)や活性酸素種除去(還元)を促進する能力を可逆的に亢進?低下させることができます。低カルシウムイオン濃度では、同触媒はほぼ不活性であり、細胞毒性を示しません。一方で、カルシウムイオン濃度が上昇した特定の条件下では、同触媒が活性化され、細胞内の酸化還元恒常性を保つ機能を発揮します。本研究で開発したこのスマート触媒は、細胞内の酸化還元バランスの不均衡によって引き起こされる神経変性疾患、筋ジストロフィー、糖尿病などのさまざまな疾患に対する薬剤の分子設計に新たな一手を提案します。

掲載論文タイトル:Ca2+-triggered allosteric catalysts crosstalk with cellular redox systems through their foldase- and reductase-like activities. 本研究成果は、3月11日(火)付でイギリスの国際化学誌『Communications Chemistry』電子版に掲載されました(https://www.nature.com/articles/s42004-025-01466-6)。オープンアクセス誌でどなたでも無料で論文を閲覧できます。また、同日にプレスリリースを行いました(https://www.tokai.ac.jp/news/detail/post_571.html)。