総合社会科学研究所知的財産部門では、6月30日に高輪キャンパスで「第2回ファッションローシンポジウムRUNWAY to the LAW -Fashion Law×eコマース-」を開催しました。本研究所は、社会科学系研究の活性化を図るための研究拠点として設立された学術研究機関で、知的財産部門ではファッションやコンテンツにかかわる法律の研究などを通して、知的財産に関する新たな研究分野を切り拓いています。今回のシンポジウムは、ファッション製品の流通においてシェアを急速に拡大しているeコマース(EC)に焦点を当て、EC事業を展開している企業の方々に現状と法的課題について報告していただくことを目的に企画しました。企業の知的財産部門に携わる社会人や法律を学ぶ学生など、約100名が参加しました。
はじめに、吉川直人副学長(国際?一貫教育担当)が開会のあいさつに立ち、「知的財産や商標という問題は、グローバル化した社会の中では危機感を持って考えなければなりません。私は国際政治、経済を専門としていますが、海外で日本の名産品の名称が商標登録され、生産地の誤解を招くようなことがありました。こういった事案は、現代社会ではどこでも起こりうることだと思います。今日は専門家の方々のお話から多くのことを学べればと思います」と語りました。
シンポジウムでは、最初に楽天株式会社知的財産上席顧問の今枝真一氏が登壇し、同社が展開するECサイト『楽天市場』の開設経緯やファッション関連ビジネスについて紹介したほか、同社が取得しているeコマースのビジネスモデル特許とその審査基準を解説しました。続いて、株式会社メルカリCSグループの徳永幸大氏が、模造品対策と一次流通?中古市場の活性化について講演。フリーマーケットアプリ『メルカリ』は消費者同士(CtoC)のやり取りが発生することから、トラブルを防ぐために実施しているAI監視や、1000以上のメーカーと連携したブランド模造品への対策などを紹介しました。また、アパレルEC向けSaas(Software as a Service)の『NEWROPE』を展開する株式会社ニューロープ社長の酒井聡氏は、ファッションメディアを運営する上で課題となるモデルの肖像権や写真の無断転載への対策や、AIが提案したコーディネートからアパレルブランドのホームページにリンクする仕様など、新規性のある自社の取り組みについて報告しました。続いて、本研究所の鈴木仁研究員が登壇し、ファッションモデルやタレントのパブリシティ権について講演。「現在の日本には肖像の財産権に関する法律がなく、時代に合わせて立法していく必要があります」と語り、容姿を商材として利益を得るビジネスの事例や、立法に必要な要素を解説しました。各講演の合間には多くの参加者から質問が上がり、活発な意見交換が行われました。
会の最後には本研究所の角田政芳所長が各登壇者の講演を総括した後、「今回は企業の方からファッション系の専門学校に通う学生まで、多岐にわたる業界からご参加いただきました。今後もさまざまなテーマで実施する予定ですので、皆さんのご意見をいただきながら展開していきたいと思います」と語りました。