教養学部芸術学科デザイン学課程が2月12日、六本木の「HAB-YU」で認知症に関するワークショップを開催しました。本課程と一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)が昨年9月に立ち上げた研究協業プロジェクト「認知症800万人時代に向けて認知症理解と社会で自分らしく暮らし続けるためのIoT利活用研究」の一環。この研究はモノとモノがインターネット上でつながるIoT(Internet of Things)技術を活用して、認知症予備軍と認知症の人の生活を支えることを目的としたものです。本課程のプロダクトデザインやインテリアデザインを専攻する2、3年次生の有志が参加し、CIAJ会員企業の富士通やNEC、沖プロサーブなどのデザイナーからデザイン思考や人間中心設計の最新の手法を学びながら取り組んでいます。
当事者の声を聞こうと実施しているワークショップは今回が3回目。学生たちは昨年11月、日本初の認知症当事者団体である日本認知症ワーキンググループ共同代表の中村成信さんに話を聞き、川崎市の介護施設を訪問するなど、認知症に関する勉強を重ねてきました。今回はまず、国立障害者リハビリテーションセンター研究所の井上剛伸氏(福祉機器開発部長)による「認知症者向け機器開発」をテーマにした講演を聴講。続いて、中村さんと同じ日本認知症ワーキンググループ共同代表を務める佐藤雅彦さんをゲストに迎え、事前にインターネットなどで調べてきた佐藤さんのIT機器活用状況や日常生活で困っていることをもとに「普段の移動は何を使うことが多いですか?」「いつも持ち歩くバッグの中身を教えてください」「会場に来るまでに困ったことはありましたか?」といった質問を投げかけ理解を深めました。
その後、レッド、ブルー、イエローの3チームに分かれて、佐藤さんの生活を助けるための案を考えて発表しました。レッドチームはメガネと連動する“IoTブローチ”を考案し、「メガネの弦の部分に埋め込んだセンサーで脈を測ることによって心身の状態を把握し、胸元につけたブローチが光ったり、フェイスブックに表示したりすることで、認知症患者が困っていることを伝えることができる」と発表。またブルーチームは、マタニティーマークのように医療機関が配布するバッチを提案し、「認知症や日常生活に不安がある人は困っていることや自分にできることをバッチに登録できます。それを見かけた人はスマートフォンなどのアプリを開くことで内容を知ることができる。例えば、電車で目の前に立っている人が“認知症で疲れやすいので座席を譲ってほしい”と登録していれば、アプリでその情報を知って席を譲ることができます」と紹介しました。イエローチームは、スマートフォンの通信機能を利用したアプリ「Conection Drop」を発表。「 道がわからない、体調が悪いなどの選択肢をクリックすると、近くで対応してくれる人の名前やレビューが表示され、直接電話でたずねることができる。逆に認知症の人が助ける側になることもでき、佐藤さんが求める偏見をなくして一人の人として受け入れてほしいという希望もかなえられます」と語りました。発表後にはCIAJ会員企業の担当者らによる審査?表彰が行われ、イエローチームが最優秀賞に選ばれました。
本プロジェクトでは3月15日(火)に最終報告会を予定しており、学生たちは3回にわたるワークショップのまとめとして認知症予備軍と認知症の人の生活を支えるIoT(Internet of Things)技術の可能性について発表します。