海洋学部博物館で10月1日に、海のはくぶつかんシンポジウム「海の生物の営みを垣間見る」を開催しました。今年3月末をもって有料入館を終了した本館は現在、学芸員養成や海洋研究を中心とした高等教育研究機関として運営しています。また、学校などの団体や個人を対象に完全予約制(入館無料)で公開を続けています。本シンポジウムは、本学海洋学部の教員や本館学芸員が継続的に取り組んでいる、駿河湾に生息する海洋生物の生態研究などについて紹介するものです。日本各地から集った水族館ファンや海洋学部生、一般市民ら約50名が参加した当日は、まず村山司館長(海洋学部教授)があいさつし、「当館は4月から無料で皆さまにご覧いただける体制になりましたが、博物館としての活動にとどまらず、海の生き物を対象にしたさまざまな研究活動にも取り組んでいます。今回は、研究成果を発表するとともに情報提供の機会としてシンポジウムを企画しました」と開催主旨を説明しました。
続いて、海洋学部博物館の青木聡史学芸員が「診てみる!? 海洋科学博物館でみられた魚の病気と寄生虫」と題して、本館の飼育生物に見られた病気の種類やその原因、治療方法などを基本的な内容から詳しく解説。病気をもたらす寄生虫の生活史研究などにも触れ、「魚類が罹る病気の研究は飼育個体の福祉の向上にもつながります」と語りました。海洋学部海洋生物学科の田中克彦教授は、「駿河湾の底生生物」をテーマに、底生動物の定義とその特徴を説明するとともに、太平洋に向かって広がり日本一深い駿河トラフを持つ駿河湾をフィールドにした研究の魅力を紹介。「学生たちと徒歩や底引き網、潜水、潜水船などさまざまな形で続けてきた駿河湾での調査では、環形動物多毛類や節足動物甲殻類など多様な生物を発見してきました。しかしまだまだ詳細のわからない生物は多く、新種発見の可能性もあります。今後も調査研究を続けていきます」と話しました。
休憩をはさんだ後半は、海洋学部博物館の太田勇太学芸員が「海岸歩行~植物を視る~」として、博物館のある三保半島の沿岸に広がる海浜植物について講演。特定外来植物の繁殖状況や、環境に適応した特徴を持つことで砂浜海岸に生育する種子植物について、写真を交えながら紹介し、「人々の土地利用によって海岸の環境も変化しています。また、三保半島では砂浜が減少しており、見られなくなった植物も多数あります。植物が減るとそこに住む動物や昆虫も減っていきます」と環境保全の重要性を訴えました。また、海洋学部海洋生物学科の大泉宏教授は「駿河湾のクジラたち」をテーマに、ミンククジラやアカボウクジラ、ミナミハンドウイルカなど駿河湾内で観察されたイルカやクジラについて語るとともに、研究室による調査の様子を動画で紹介。学生たちが取り組んできた清水港に生息するミナミハンドウイルカの出現場所、時間、行動などの調査結果も示し、「清水港は年間8000隻もの船舶が出入りする港ですが、このような場所にイルカが住み着いている例は他にありません」と語りました。
最後に村山館長が登壇し、「今回の講演では魚の話は出てきませんでしたが、海の手前の海岸、海底、港湾内など私たちが普段はあまり気にしていない場所にも生物の営みがあることを知っていただけたのではないでしょうか。今後も皆さんにさまざまな話題を提供できるような企画を考えていきます」とまとめました。終了後には、博物館のバックヤードツアーを実施。水槽の裏側や標本室、実験室など普段は立ち入れない場所を学芸員が案内しました。