生物学部海洋生物科学科の北夕紀准教授が参画する研究グループ※がこのほど、イルカの糞の中に含まれるDNA情報を用いて年齢を推定する手法を開発しました。イルカをはじめとする野生動物の年齢推定には、寿命を超える長い期間での観察研究や、動物の捕獲を必要とする方法が一般的であり、長寿の野生動物の年齢推定はきわめて難しい状態でした。本研究は、野生水生動物の糞といった非侵襲的な試料由来のDNAに対して、初めてDNAのメチル化率を調査するエピジェネティッククロック解析と呼ばれる手法に成功した画期的な研究成果です。この成果をまとめた論文は2023年12月2日に、国際学術誌『Molecular Ecology Resources』オンラインに掲載されました。
年齢推定には、実年齢のわかっている個体の糞から抽出されたDNAのメチル化率を測定して年齢とメチル化率の相関関係を調べる必要があり、研究グループでは、東京都御蔵島観光協会の協力を得て本研究を展開。同島周辺に生息する野生のミナミハンドウイルカは、1994年より体の傷などを手がかりに1頭1頭見分けられており、約150頭のほぼすべての個体が識別され、御蔵島観光協会が情報を管理しています。また、御蔵島ではイルカと共に泳ぐ「ドルフィンスイム?スイム」が行われており、イルカが水中で糞をする場面に立ち会うことも可能です。本研究では、原則二人一組で小型アクションカメラとポリエチレンチューブを持って水中に入り、イルカを撮影しながら排泄した糞を採取。その後、採取した糞からDNAを抽出し、2つの遺伝子領域(GRIA2、CDKN2A)を対象にメチル化率を測定しました。61サンプルの糞から抽出したDNAの内、30個体から得られた36サンプルのメチル化率を調べたところ、得られたメチル化率と実年齢の間には相関関係が認められ、平均5歳程度の誤差での年齢推定が実現しました。動物に触れることなく年齢がわかれば個体群の人口ピラミッドが作成でき、絶滅リスクの予測などが可能になります。
鯨類などの遺伝的多様性や群れ構造の解明に取り組む北准教授は、研究室に所属する学生らと共に長年にわたって御蔵島に生息するミナミハンドウイルカの血縁解析を実施。一方で、本研究で中心的役割を果たした三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程3年の八木原風さんらにDNA抽出や解析の手技を指導してきました。北准教授は、「イルカをはじめとする野生動物の年齢推定には、一般的に動物を捕獲する方法が取られてきましたが、生体試料の採取には個体の捕獲などが必要であることが多く、野生動物へのストレスや悪影響のみならず、研究者自身が危険にさらされる場合もあります。研究室では今回実現した糞からのDNA採取をはじめ、クジラやシャチが潮を吹きだすいわゆる『噴気』からDNAを採取する方法にも挑戦しています。今後も他大学や水族館などと協力体制を確立し、研究の継続を図っていきます」と話しています。
※研究チームは下記の通り
三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程3年 八木原風さん(共同責任著者)
同研究科 森阪匡通教授(共同責任著者)、吉岡基教授(現?三重大学理事)
京都大学野生動物研究センター 村山美穂教授(共同責任著者)
同大学理学研究科博士後期課程 齐惠元さん、新井花奈さん
bet36体育投注_bet36体育官网app-在线*开户生物学部海洋生物科学科 北夕紀准教授
御蔵島観光協会 小木万布さん