熊本キャンパスの教員らが参加する「江津湖研究会」の設立40周年を記念した講演会が、12月4日にくまもと県民交流館パレアで開催されました。熊本市中心部から南東へ約5kmの位置にある江津湖は、長さ2.5km、周囲6km、湖水面積は約50haを誇ります。上江津湖と下江津湖に分かれており、絶滅危惧種に分類されている「スイゼンジノリ」などが生育しています。同研究会は1982年2月の創立以来、江津湖を中心とした熊本水環境保全に取り組み、行政や教育界と連携しながら親子自然観察会や会誌の発行などを継続してきました。
講演会では初めに同研究会会長の椛田聖孝本学名誉教授が「江津湖とともに~熊本水環境のシンボル…~」をテーマに登壇。熊本や九州全体の水環境について解説したあと、1962年には1日に約90万tあった江津湖の湧水量が現在は40万t前後まで減っていることや、農学部在籍時から研究してきたスイゼンジノリの歴史も紹介。糖尿病を誘発させたマウスにスイゼンジノリを与えた実験では、合併症として引き起こされる白内障の発生率が軽減したことも報告しました。「本研究会では講演会や親子の自然観察会、留学生との討論会などを開いてきました。昨年度からコロナ禍で活動が制限されていますが、また再開したい。皆さまのご支援があって40年間活動を続けることができました」と感謝を述べました。
続いて、同研究会事務局長で農学部長の岡本智伸教授が「阿蘇草原と江津湖に見る持続可能な暮らしを支える半自然文化」と題して講演。人間が生きていくために必要な「生態系サービス」や、約600種の植物が自生している阿蘇の野草地の構造について触れ、「阿蘇は熊本市より降水量が1.5倍多く、草原が地下水を担保する大きな秘密を握っています」と話しました。さらに、人間が生態系の歯車の一つとして働く半自然の文化についても解説し、「地域の中で持続的に生きていくためには、生態系サービスを基盤にした暮らしを送らなければなりません。熊本には伝統的な文化に隠れた知恵があります。江津湖や阿蘇を今後の世代に残していくために、もう一度見返す必要がある」とまとめました。
同研究会副会長で白川流域リバーネットワーク理事長の金子好雄元産業工学部准教授は「阿蘇?白川?江津湖」をテーマに、阿蘇山中から熊本市内を経て有明海に流れる白川と、その支流の黒川で20年以上にわたり学生とともに続けていた「白川調査」の地点ごとの水質や、江津湖に生息?生育する動植物を紹介。「阿蘇から流れてくる途中で稲作などによって人間が関与し、地下に涵養されて江津湖の水環境がつくられています。何一つ欠けてもできなかった世界に一つだけの環境」と強調しました。その後、同研究会顧問で九州動物学院副学院長の本田公三氏が「江津湖とゲンジボタル」について、同事務局次長でスチューデントアチーブメントセンター(九州教養教育センター)の福﨑稔教授が「熊本地震からの復興とSDGs」について講演。最後に、聴講者からパネリストへ多くの質問が寄せられ、活発な議論が展開されました。