海洋学部海洋生物学科の田中克彦准教授が参加する研究グループがこのほど、ゴカイ類の新種を発見。学名を「Spirobranchus akitsushima」と命名し、5月12日付でこの研究成果をまとめた論文が国際学術誌『ZooKeys』に掲載されました。
ゴカイ類(多毛類)は種数や個体数も多いことで知られ、日本沿岸では1500を超える種が報告されています。このうち、日本国内の磯によく見られるカンザシゴカイ科のヤッコカンザシは、南アフリカからインド洋、太平洋にわたって広く分布する世界共通種「Spirobranchus kraussii」だと考えられていました(Pomatoleios kraussii としている図鑑などもありますが、近年、Pomatoleios 属から Spirobranchus属に移されました。)。しかし、2019年に国際学術誌に掲載された論文で、世界各地から得られた標本の遺伝子の比較により、Spirobranchus kraussii が形態のよく似た複数種の混合であることが示唆されました。こうしたことを受け、田中准教授が参加する研究グループは、2020年から神奈川県鎌倉市の和賀江島(相模湾)や三浦半島西部、御前崎(静岡県)の磯から標本を採集。遺伝子解析や形態観察などから、南アフリカを基準産地とする本来の Spirobranchus kraussii とは異なることを明らかにしました。ヤッコカンザシは石灰質の硬い棲管を作り平均海面付近に帯状に群生する特徴を持ちます。その棲管はヤッコカンザシが死んだ後も遺骸として岩礁上に数千年単位で残ることから、過去の平均海面の推定の際に良好な指標となり、実際に地震による土地の隆起や沈降の証拠として利用されるなど地質学者からも注目を集めています。このことから、標準和名の「ヤッコカンザシ」はそのままに、過去の記録を残す様を踏まえて、日本の古称である「秋津洲」に因んだ学名が付けられました。
田中准教授は、「遺伝子解析技術が発達したことで、図鑑に掲載されている生き物でも調査すると別種であったという事例が近年多数報告されています。今回の新種も日本沿岸で最もよく目にされるような、いわゆる「普通種」が新種として記録されたものです。あらためて種の分類をよく見直すことで、身近な環境の生物多様性の理解にもつながると思います」と話すとともに、「今後は沖縄に遺伝的に異なる近縁の種がいることが分かっているので、比較検討して分類学的研究を進めていきたい。そして、この仲間が作る棲管の形態を比べ、その違いを明らかにすることで、遺骸を調べる際にも役立つのではないか」と今後の研究について語っています。