海洋学部海洋理工学科海洋理工学専攻では12月8日に、静岡市?静岡商工会議所事務所会館で第1回海洋理工学セミナー「地球温暖化の時代だからこそ、海洋と大気のことを話そう」を開催しました。地球温暖化が進行し、日本周辺海域でも海面水温が上昇、2017年以降は黒潮が大きく南に蛇行する「大蛇行流路」となりその継続期間は観測史上最長を更新し続けています。このような環境変動の状況について、2022年度に設立した海洋理工学専攻の中から海洋学を専門とする教員3名と、海洋学部卒業生で今年度から本学客員教授に就任した気象予報士の依田司さんの講演を通じて考える機会にしようと初めて実施したものです。オンラインも併用し、学生や環境問題に関心を持つ市民の皆さんら約30名が参加しました。
初めに専攻長の植原量行教授が会の趣旨と演題について説明。続けて「複雑な海洋と大気の世界」をテーマに講演しました。植原教授は、船舶観測から見積もった海洋大循環や、大気と海洋の運動を記述する複雑な方程式に挑んできた研究者の歩みに触れ、「過去に起こったような著しい気候変動が起こることもあり得ますが、その予測は困難であり比較的安定した気候状態で築かれた今の人間社会と本質的に異なる社会のしくみが必要になると考えられます」とまとめました。
続いて登壇した高橋大介准教授は、「駿河湾の風と黒潮」をテーマに、駿河湾への外洋水の流入、大井川や安倍川など4つの大きな河川からの淡水の流入に触れ、「駿河湾の海洋循環は、海上を吹く風についても知らなければ、本当の意味で理解できない」と指摘しました。そのうえで、2017年の8月に発生した黒潮大蛇行に伴う海水温の上昇が遠州灘周辺の気候を変化させ、駿河湾では北風が強くなっている現状を説明し「駿河湾では、海洋が大気を変えていることが最新の研究で分かってきました」と語りました。
「大気と海洋をめぐる物質と地球温暖化」と題した小松大祐准教授の講演では、各海域における二酸化炭素の吸収と放出量の分布図や経年変化の解析結果を示すとともに、本学の海洋調査研修船「望星丸」に備えた「pCO2観測システム」を用いた表層海水の連続計測によって解析した駿河湾の塩分やpCO2の時系列変化を説明。さらに駿河湾湾口部の海底を撮影したカメラ映像を紹介しつつ、「表層で生産された有機物が中?深層に運ばれた沈降粒子は生態系のエネルギー源であるだけでなく、CO2を中?深層に貯留する働きもあります」と解説しました。
最後に登壇した依田さんは「いま地球で起きていること—気候変動の最新見解—」をテーマに講演。世界的に止まらない異常高温とその原因について解説し、「この暑さは地球温暖化がなければ1200年に1度の現象ですが、地球温暖化が進んでいることで240倍起こりやすくなっているというデータもあります」と説明。また、電通が実施したZ世代と呼ばれる若者たちへのアンケート調査の結果を示し、「気候変動を心配している日本の若者はわずか16.4%と、他国と比べて著しく低い結果でした。気候変動対策はいまやビジネスと直結しており、このままでは意識の高い諸外国に置いて行かれ、海外諸国からの信用度も低下するでしょう」と警鐘を鳴らし、「2023年に進んだ気候変動で元の地球には戻れなくなったと言えるのではないでしょうか。カーボンニュートラル実現に向けて、温室効果ガスを減らす、温暖化による悪影響に備えることが重要です。個人個人の意識を高めるとともに、政府や企業への働き掛けも続けていかなくてはなりません」と語りました。
最後の質疑応答では、駿河湾研究に取り組むメリットや気候変動に関する講演への反響など多数の質問が寄せられ、教員と依田さんが丁寧に回答しました。