海洋研究所の長尾年恭客員教授(前?同研究所所長)が参画する日英共同研究グループがこのほど、測位衛星データ(GPS)に機械学習技術を適用することで初期の津波を可視化することに成功しました。本研究は、英ユニバーシティ?カレッジ?ロンドン(University College London/Alan Turing Institute)の金井龍一氏が中心となり、長尾教授をはじめ静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授の鴨川仁氏など多くの研究者が参画。3月15日付で研究成果をまとめた論文が自然災害関係のトップジャーナル誌『Natural Hazards and Earth System Sciences』に掲載されました。
長尾教授らは、津波が発生した際に人が可聴できない超低周波の音波「インフラソニック波」が大気中を伝わることで、津波発生領域直上の高度300 kmの電離圏で電子が消失する現象である「津波電離圏ホール」に注目。東日本大震災の際に発生した津波のデータなどを分析し、GPSデータから算出した津波電離圏ホールの形状と従来の研究手法をもとに算出した初期波源の相関性が高いことを解明しました。今回は国土交通省?国土地理院が設置した日本全土で約1,200点ある測位衛星受信局のデータに機械学習を用いた解析方法を取り入れ、従来リアルタイムでは難しかったノイズ除去やデータ点間の補間が行えるようになったことで形状をより正確に捉えることに成功。そのデータを用いて、海面の変化を捉えることで、津波の初期波源の形状を測定しました。また、機械学習を用いたデータ解析は、測位衛星受信点が5%しかない場合でも、すべての受信点を用いた場合と同様の結果を得ることができるとされ、受信点の設置数が少ない国や地域においても本手法を使用することで初期の津波を可視化できると期待されています。
長尾教授は、「気象庁が発表する従来の津波予測は、実際には津波データではなく、地下の断層運動(地震)の数値シミュレーションを元に発表しているため津波の規模が想定を上回る可能性も、下回る可能性もあります。東日本大震災でも地震発生当初は、津波被害を過小評価していました。本研究ではある意味、海面に生じた津波そのものを観測しているため津波の早期予測の精度が格段に向上すると考えられています。そのため現在気象庁が最重要課題としている津波警報の正確な解除につながると考えており、迅速に救助活動が開始できます。この手法は実装化にはまだ至っていませんが、いずれは緊急地震速報などの配信情報に組み込んでいけると期待しています」と話すとともに、「現在は、みちびき3号機(準天頂衛星システム静止軌道衛星)とみちびき1、2、4号機(準天頂衛星)を用いて、今後40年以内に約90%の確率で発生するとされる南海トラフ巨大地震に対して電離圏の変動をリアルタイム監視する研究を進めている」と語っています。
『Natural Hazards and Earth System Sciences』
https://doi.org/10.5194/nhess-22-849-2022